訪米調査の事例から(13)エヴァリン・ブロディ教授
2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。
そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。
※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。
第十三回 エヴァリン・ブロディ教授
イリノイ工科大学シカゴ・ケント法律大学エヴァリン・ブロディ教授
2005年9月14日(水)訪問
1981年、米国弁護士協会の機関誌「The Tax Lawyer」の編集者の折、ジョージタウン大学から優秀賞を授与される。エール大学にて学士号。1992年にシカゴ・ケント法律大学の教員に。88年から92年、米国財務省の税政策室(Office of Tax Policy)に顧問弁護士として勤務。
個人所得税、法人税、投資税制、および非営利法に関する教鞭をとっている。また、法律、経済、個人や企業・非営利団体に関する社会問題について、幅広く講演や執筆活動を行っている。
1994年には、台湾・財務省で金融商品の税の扱いに関するコースを受け持った。1992年にはクリントン・ゴア政権への移行チーム(財政・税部門)に加わった経験も。
著名なシンクタンクであるアーバン・インスティチュートの非営利・フィランソロピーセンターの研究者でもあり、米国弁護士協会の税務部門担当も務めている。ARNOVA(いわゆる米国版のNPO学会)の理事でもある。
訪問団:
私たちの、NPOの信頼性向上のための研究という訪米目的についてご意見を伺いたい。
ブロディ教授:
往々にして、他のところの方がうまくいっているんじゃないか、良い制度を持っているのではないかと考えがちだが、皆さんがお持ちのような問題は私たちにもある。問題になっていることのひとつは、アカウンタビリティの欠如。しかし、寄附者側も、それをどこまで問題視しているかというと疑問もある。
現在、米国ではカトリーナハリケーンの被害が緊急な大きな問題で、私も夫もあわてて寄附を送った。しかし、問題はカトリーナだけではなくて、シカゴにだって問題はある。しかし、テレビで騒いでいないからそこまでは目が行かない。個人の寄附者というのは、どうしてもぱっとみて「あ、気の毒だ」と思って衝動的に寄附する。そして、それがちゃんと効率よく効果的に使われているかといえば、非常に疑問も残る。
賢明な政府を選ぶか、あるいは賢明なNPOを選ぶかという場合、本当は政府が賢明であればそれを選べれば良い訳だ。そうすれば、集めた税を必要なところに配分していける。しかし、実際には、政府がそれほど賢明であるとは限らない。だから、今のような政府とNPOがあるようなシステムになっている。非効率だけれども、自由に自分の意見が表現できるシステムでもある。
実際、カトリーナハリケーンでは、政府の対応は非常に遅くて、反対にNPO側はすごく機敏に動き、柔軟で、革新的な対応をしている。
訪問団:
米国に来てから、スタンダード・フォー・エクセレンスや、NPOを格付けしているNPOの話も聞いてきた。これらの取組みは、米国のなかで信頼性を向上させるのに効果的だと考えておられるか。また、寄附とアカウンタビリティの部分について、少しお話いただけないか。
ブロディ教授:
NPOの格付け機関を格付けする、ということもされている。いくつかの格付け機関があって、それぞれでNPOの評価が異なる時、一般市民はどの格付け機関を信じたらいいのかという問題が生じる。しかし、考えてみれば、この格付け機関というのは、寄附者が寄附先を選ぶ時に、その寄附が効果的・効率的に使われて欲しいと考えていることが前提となっている。私は、果たしてそうかなぁ、と思う。寄附者が小切手を切るときに、このお金が効果的に使われて欲しいとどこまで考えているか疑問だ。米国の寄附者の大多数は、自分が出た大学とか、地域のよく知っている団体に何年も続けて寄附をしている。自分の住んでいるところのNPOであれば、だいたい何をしているか目に見えるものだ。
訪問団:
では、そのNPOが地域の人の目に見えているということが大事ということか。
ブロディ教授:
そう思う。しかし、そのために果たして新たな法律が必要かどうかはわからない。法律的な問題ではないかもしれない。
訪問団:
法的には、情報の開示は重要ということか。
ブロディ教授:
米国憲法では、自由が保障されており、NPOの募金活動のプロセスそのものを規制することはほとんどできない。だから、情報開示ということになる。
ガイドスターは、NPOの確定申告書をホームページに公開しているが、私はこれはすばらしいことだと思う。毎年12月になると、多くの米国人と同じように、私と夫は寄附をするのだが、その時にオンラインで寄附をしようとしている先の団体の確定申告書を見ることができる。そうすると、「このNPOの職員の給与は、私の5倍もある」とか分かるのだ。これはすばらしいシステムだと思う。
しかし、私はNPOに同情もしている。どのNPOも全ての人をハッピーにすることはできない。例えば、寄附者に向けては「お金が足りないから寄附をください」と言わなければならないが、別の人には「私たちは財政基盤がしっかりとした信用できる団体だ」と言わなければならない。全てを情報開示すると、その事実のもとに異なる話を相手にしなければならなくなってしまう。
それから、情報開示する際の問題点は、情報開示したが故に、さらに情報開示をする必要が出てくること。職員の給与を開示したら、「そんなに高額の給与を払っているようなところに寄附したくない」と、私のような人が出てくる。そうしたら、NPOは、その理由付けのためのさらなる情報開示をしはければならなくなる。これは、法的な情報開示ではなく、いわば自衛のための情報開示。
訪問団:
では、どうしたらNPOの信頼性を向上させ、寄附が効率的に使われるようになるだろうか。
ブロディ教授:
私は、コミュニティ財団(コミュニティ・トラスト)のような組織に期待している。たとえば寄附者が「子どもの福祉のために使って欲しい」といってコミュニティ財団に預けたら、コミュニティ財団自身が、子どもの福祉を行っているNPOを比較してこっちのNPOが良いといって寄附するという仕組み。
ただし、これにも問題はある。今問題になっているのは「ドナー・アドバイズド・ファンド」というもの。つまり、寄附者がこう使え、と指定してくるもの。自由な国だから、自分のお金の使い方を指定できるというわけだが、そうなるとコミュニティ財団自身の裁量権がなくなってしまう。また、そういう指定したニーズが地域にあるとも限らない。だから、私は本当は税金の方が良いという考え方。財務省にも勤務していたことがあるが、税金はちゃんと払うべきだ。
ブロディ教授は、紅茶やクッキーでにこやかに迎えてくれた。親日家でもあり、何度か来日されたこともあるとのこと。教授のもとでは、中国・北京からの研究者も学んでおり、同席してくれた。教授は、海外の財政担当の公務員向けのコースで教えたこともあり、研究は海を超えて広がっているようだ。
2007.02.02