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2005年05月13日 10:00

行政 : 公益法人連絡会、税制要望を提出

 5月12日、公益法人制度改革問題連絡会は、政府税制調査会に「公益法人制度改革に関する新たな税制に向けた要望」を提出し、都内で記者会見を開いた。会見には、社会評論家の樋口恵子氏や、さわやか福祉財団理事長の堀田力氏などが出席し、寄附税制の拡充を訴えた。

 

 公益法人制度改革問題連絡会(以下「公益法人連絡会」)は、現在、政府が進めている公益法人制度改革に関して、世論喚起と提言を行うために、公益法人の支援組織を中心に、NPO法人、任意団体などの支援組織31団体が参加するネットワーク組織。事務局は(財)公益法人協会が務めている。

 公益法人制度改革では、4月15日から新しい非営利法人制度における税制の議論が、政府税制調査会(首相の諮問機関)で開始され、6月21日までに中間とりまとめを行う予定となっており、本日5月13日にはその途中の総会が開かれることとなっている。

 そのため、公益法人連絡会では、総会前日の12日、政府税制調査会宛に「公益法人制度改革に関する新たな税制に向けた要望」を提出した。提出先は、政府税制調査会の事務局を務める財務省。

 要望書の主要な主張は以下のとおりである。

  • 一般的な非営利法人に関しては、対価性のない会費、寄附金、補助金等については課税対象としない。
  • 「公益性のある非営利法人」に関しては、公益目的の事業から生じた収益には課税しない。
  • 「公益性のある非営利法人」に関しては、公益事業以外からの所得を、公益事業に支出した場合は、損金扱いとする。
  • 「公益性のある非営利法人」に関しては、金融資産の運用益に関しては課税しない。
  • 「公益性のある非営利法人」に関しては、寄附金控除の対象とする。
  • 「公益性のある非営利法人」に関しては、資産寄附税制に関しても、寄附しやすいように現行の課税方式を見直す。
  • 税制改正の議論に関しては、審議等の状況や内容を速やかに開示し、広く国民から意見を聞く機会を設ける。

 提出後、同連絡会は午後2時から都内の如水会館で、共同記者会見を開催した。

 会見での出席者の面々は次のとおり。

  • 樋口恵子氏(社会評論家)
  • 山本正氏((財)日本国際交流センター理事長)
  • 吉川弘之氏(独立行政法人産業技術総合研究所理事長、元東京大学総長)
  • 木原啓吉氏((社)日本ナショナル・トラスト協会名誉会長)
  • 堀田力氏((財)さわやか福祉財団理事長、弁護士)
  • 太田達男氏((財)公益法人協会理事長)

 加えて、遠山敦子氏((財)松下教育研究財団理事長、元文部科学大臣)がメッセージを寄せた。

 会見では、太田氏が財務省に要望を提出したことを報告した後、参加者各自がそれぞれの立場で、税制改革の必要性を訴えた。記者会見には、12社のメディアが出席した。

 共同記者会見における出席者の発言の要旨(概要)は以下の通り。

太田氏:

 現在、政府という公的部門のスリム化が進む中で、民間非営利活動への期待が高まってきている。その中で、政府は公益法人制度改革を進めているところである。公益法人制度連絡会としては、すでに二回、法人制度の改革に関して要望書を提出してきた。この4月から政府税制調査会で、新しい法人制度の税の議論が始まったことを受け、今回、税に関する要望書を政府税制調査会に提出した。本日、税調の事務局の財務省に出したところである。

樋口氏:

 私は、「NPO法人高齢社会をよくする女性の会」というNPOをやっている。日本社会のこの10年間はいろいろ言われているが、私は、日本が市民社会に向けて歩み始めた最初の10年間だと評価している。地方分権の方向が定まり、国と地方の対等なパートナーシップが確認された。また、NPO法や情報公開法などの法律が整備され、官と民との対等なパートナーシップが打ち出された。男女共同参画社会基本法やDV法などもでき、男性と女性の対等なパートナーシップに向けての方向も見えてきた。この3つの対等なパートナーシップは、市民社会の基本となるもので、その入口が見えてきたということだ。そのことを評価したい。しかし、まだ十分ではない。

 今日のテーマである寄附という行為は、市民社会における善意の近道である。また、ただお金を出すと言うことだけではなく、社会への参加の方法である。21世紀型の人間の豊かさとは、顔の見える関係で人がつながっていくことが大事だと思っている。寄附する人は、増えつつある。たとえば、子どもや孫のない高齢者が増えてきている。その代わり、地域社会で血縁がない人どうしで助け合い、そのことを支えていきたいという人が増えてきている。こういうことが寄附であり、それは社会参加の一つの形態である。

 その寄附に関する免税措置は、市民社会の善意の近道をつくることだと思っている。寄附免税をぜひ実現してほしい。

山本氏:

 国際交流に関するNGOの仕事を40年くらいしている。昔とくらべると、この分野の民間の活動の発展は目を見張るものがある。しかし、民間団体が参加するアジアの国際会議に出ても、日本の人たちの存在感は希薄である。今回の津波被害の支援活動でも、国際的にみればまだまだ日本のNGOの活動は少ない。今、日本の常任理事国入りが云々されているが、このようなことで、常任理事国入りの条件が整っているか疑問である。

 こういう話をすると、ボランティアが大事だという話になるが、現地との調整などプロフェッショナルな仕事が必要される。プロがいる民間非営利組織が必要なのだ。しかし、NPOの多くは規模が小さく、プロフェッショナルな組織になれないでいる。日本が国際的レベルの活動できるようにするためには、税制を変えなければならない。寄附文化をつくっていく必要がある。しかし、単に寄附税制の仕組みを整えればいいというわけではない。

 私の団体は、特定公益増進法人という寄附優遇法人である。これは、現在、2年ごとに申請する仕組みだが、その作業に6ヶ月から8ヶ月かかりっきりになる。毎回、120くらいの官僚からくだらない質問が来て、それに答えなければならない。さらに、こんなこともあった。私の財団は、日本を国際的によく理解してもらうプロジェクトを推進するということで特定公益増進法人になることができている。ところが、ある国際会議について官僚がチェックして、その会合には外国人の方が参加者が多いので、日本人が何分しゃべったかを持ってこいといわれた。持っていくと、それでは少ない。これでは日本の国益にならないので、特定公益増進法人にはできないと言われた。ばかばかしいことである。

 今回の仕掛けは、寄附免税の仕組みは前進するように言われているようだが、このような愚を繰り返してはならない。ある条件を満たせば、その団体が認定されるという仕組みでなければならない。ぜひ、仕掛けレベルでも国際レベルで笑いものにならないものにしてほしい。

木原氏:

 私は、日本の環境保全の基本は住民であると思っている。住民が自らの地域の環境保全をしていこうということで、自治体が条例をつくり、その後で国が法律をつくった。環境運動は、明治以来のトップダウンの行政のあり方をひっくり返す運動の原点となっている。日本の環境問題の最初は、公害だった。次は自然の破壊であり、70年代に自然保護運動が、70年代後半には地域の文化・歴史的環境を守るという運動がおこってきた。

 昭和39年に鎌倉でナショナルトラスト運動を起こしたことが、日本のナショナルトラスト運動の始まりである。ナショナルトラスト運動はイギリスで始まったわけだが、イギリスでは、ナショナルトラスト法が出来、土地の永久保存の原則をうち立てた。さらに、個人、法人がナショナルトラストに寄附したらそこは非課税とするという仕組みもつくったし、相続税の免除という仕組みをつくりあげた。この運動は、戦後、世界中に広まっている。

 日本でも、鎌倉から全国に広がったが、問題は税金である。しかし、大蔵省は、特定公益増進法人に該当するなら税制の優遇をするというが、それは、これまでたった4カ所でしかない。自然を守ろうという場合には、諸外国と同様、日本ももっとしっかりしてほしいと思う。

遠山氏:(メッセージ)

 現在、明治以来100数年ぶりという公益法人制度改革が進められている。21世紀に入り、日本の社会は、これまでのような中央政府主導の大きな政府ではやっていけないということは明らかである。そのため現在構造改革が進められているわけだが、公益法人制度改革で、民間の活動が活性化されることが必要だ。税制の支援策がないと民間非営利活動が活性化されない。とりわけ、寄附税制の拡充が不可欠である。公益法人制度改革をきっかけに寄附税制を抜本的に見直し、市民活動が活発になっていくことを期待する。

吉川氏:

 科学研究に関して、その中でも基礎研究ということでは、現在は国の金、つまり税金でやっている。歴史的に見ると、ヨーロッパでは17~18世紀は王家がやっていた。その後、戦争の必要から、科学技術研究は国がやるということになってきた。戦後は、産業のための科学となってきている。その結果、基礎研究がおろそかになってきた。

 これを受けて、日本では、1990年代に科学技術基本法ができて、また税金で基礎研究をしようということになって戻ってきた。しかし、これは一本のパイプでしかない。そして、何を研究すればいいかについては国の監督がきつくなる。今、国は4つの重点課題を挙げている。ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジーである。その4つの課題の研究には金が行く。しかし、そこに入っていないところにはお金が行かない。

 しかし、今日、人々のための科学が求められている。たとえば癌研究がある。人々が癌研究をもっとしてほしいと思った場合どうなるのか。このような多様な研究を支えるためには多様な財源が必要だ。研究したいという人たちと、研究してもらいたいという人々たちの間に、税金という一本のパイプしかないために上手くいかない。

 イギリスでは、税金で基礎研究をするパイプもあるが、もう一つ、NPOが寄附で金を集めて、市民のニーズに応えた基礎研究を行っている。多様な公益性が存在するためには、税金以外のもう一つのパイプが必要だ。日本は、上手なカネの流れを作ることが非常に遅れている。多様な公益のための経済を強くする必要がある。

 日本には寄附文化がないから、税制を変えても仕方ないという意見があるが、これはどちらが先かという議論だと思う。少なくとも、科学の分野では、現実に私財をなげうって研究して欲しいという人が存在しているので、税制が変われば穴が空く部分がある。

堀田氏:

 さわやか福祉財団で、14年間、ボランティア等々を広める活動をしている。財団になるとき、役人にいろいろ質問されたが、「さわやか」とはどういう意味かと聞かれたことが忘れられない。

 この社会のいろいろな分野で、ボランティア活動など、社会のためにがんばっている人たちがたくさん出てきている。本来なら行政は、自分たちができないところを民間がやっているのだから、ありがとうと声をかけ、「一緒にやっていこう、社会も一緒によくしていこう、だから税も無税にしていくよ」と声をかえるのが本当だと思うが、実際にはそうはなっていない。そういった活動を、今までの法律で規制をしてくる。

 たとえば移送サービスなどを白タクであるとして、いろいろ制約をつけてくる。事実上できないような条件をつけてくる。役人は、法律を勝手に使って規制してくる。自分たちのやっているところを邪魔されたくないという発想である。これでは、法制度をしっかりと変えないと、民間の力を阻害していくこととなる。

 これまでの税調の動きを見ていると、ともかく課税したいという動きがあり、それに対して、強力に運動を展開してきた。この4月からの動きを見てくると、財務省は、少しは民間の活動が見えるような方向になってきているのかもしれないと思う。

 この際、この公益法人改革を民間の力を生かす本物の改革にしていくことが重要だ。広くいろんな団体が参加できるような改革になるようにしていきたい。日本には寄附文化がないという意見もあるが、税制は相当な効果がある。寄附を税制優遇を通じて受けたい団体は多いし、寄附文化を生み出そうというなら、むしろ制度をつくってそれを助長すべきである。

 税制調査会に対する要望だが、公益性が認められれば税制優遇措置を認めるという、その線を貫き通してほしい。しかし、それだから公益性の認定を厳しくしようということにならないような運用面の基準をしっかり作って欲しい。寄附金優遇措置に関して有効期間を設けるという話だが、それはおかしい。有効期間は設けるべきではない。また1万円の足切りはなくしてほしい。

 公益法人連絡会が提出した要望書の全文は以下の通り。


公益法人制度改革に関する新たな税制に向けた要望

2005年5月12日

公益法人制度改革問題連絡会

 「公益法人制度改革」におきましては、「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日閣議決定)の中で、「公益法人制度改革の基本的枠組み」が具体化されることになりました。これに関連して、新たな公益法人に関わる税制についても具体的な検討が開始され、この6月までには新税制が一通り固められるものと思われます。大変厳しい時間的制約の中、関係各位のご努力には敬意を表する次第であります。

 社会を活性化するために政府部門や民間営利部門では十分対応できない領域を民間非営利部門が担うことを期待し、公益的な活動が果たす役割は重要であるとの基本認識の下、民間非営利活動を促進するための新たな税制度を設定する意義は大変重要であり、今後はその点を十分踏まえた検討を期待いたします。

 なお、この場合、“現場の声”を真摯に受けとめ、上記の意図が適切に実現されるよう、以下の点をぜひとも考慮いただくことを切に要望する次第です。

1 「一般的な非営利法人」に関する税のあり方について

 「一般的な非営利法人」に関する税のあり方については、対価性のない会費、及び寄付金、補助金等については課税の対象としない。

2 「公益性のある非営利法人」に関する税のあり方について

1)法人課税について

 公益を目的とする事業からの収益については課税の対象としない。また、公益を目的とする事業以外の事業から生ずる収益を、公益を目的とする事業のために支出した場合には、その全額を寄付金とみなして損金算入することを認める。

2)金融資産収益に対する課税について

 金融資産の運用によって生ずる収益については課税の対象としない。

3)寄付金税制について

 「公益性のある非営利法人」に対する寄付金については、寄付金控除(個人の場合)や損金算入(法人の場合)を認めるとともに、資産寄付税制についても、現行のみなし譲渡所得税や相続税のあり方を抜本的に見直し、寄付文化をより促進する制度とする。

3 情報を開示し、広く意見を求める

 今後の税制の検討に際しては、予め審議等の日程を明らかにし、審議等の状況や内容を速やかに開示するとともに、広く国民から意見を聴取する機会を設ける。

「公益法人制度改革問題連絡会」について

 これからの「市民社会」の発展に向けた視座から、「公益法人制度改革」に関する世論喚起と社会的提言を行うことを目的に、現在改革の対象となっている当事者団体(財団法人、社団法人)を中心として、幅広いネットワークを有する拠点的な団体を構成メンバーに、2004年3月29日発足しました(事務局・(財)公益法人協会)。

 現在の参加団体は以下の31団体です。

<2005年4月19日現在、団体五十音順>

 アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)

 NPO支援財団研究会

 特定非営利活動法人 NPO事業サポートセンター

 関西財団の集い

 社団法人 ガールスカウト日本連盟

 芸術文化助成財団協議会

 財団法人 公益法人協会 *

 高齢社会NGO連携協議会

 特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター

 社団法人 茶道裏千家淡交会

 財団法人 さわやか福祉財団 *

 社会福祉支援団体懇話会

 財団法人 助成財団センター *

 私立美術館会議

 シーズ=市民活動を支える制度をつくる会 *

 生命科学助成財団連絡協議会

 社団法人 東京青年会議所

 特定非営利活動法人 日本NPOセンター

 社団法人 日本オーケストラ連盟

 財団法人 日本教育公務員弘済会

 財団法人 日本キリスト教婦人矯風会

 社団法人 日本芸能実演家団体協議会(芸団協)*

 財団法人 日本国際交流センター

 社団法人 日本青年会議所

 社団法人 日本ナショナル・トラスト協会

 社団法人 日本フィランソロピー協会

 社団法人 日本フラワーデザイナー協会

 社団法人 日本ペンクラブ

 財団法人 日本YMCA同盟 *

 財団法人 日本YWCA

 財団法人 ボーイスカウト日本連盟

注)末尾の*は「世話団体」

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