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その他ニュース

2009年07月15日 15:00

その他 : 公文書管理法成立、国民共有の資源と定義

 6月24日、参議院本会議で公文書管理法案が全会一致で可決・成立、7月1日公布された。公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定義。現在・将来における行政機関の説明責任達成も目的とした。国会提出後の議論では、公文書市民ネットが活躍。市民側の意見を国会へ届けた。

 

 公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)は、行政機関が作成・取得した文書(公文書)の位置付けや定義をはじめ、公文書の管理・保存方法や公開・利用方法、関係各機関の役割などを定めたもの。従来は、国立公文書館が存在するものの、統一的な管理法が存在しなかった。各省庁がバラバラに公文書を作成・保存・廃棄し、年金記録問題やC型肝炎問題などずさんな管理に起因する問題が多発していた。

こうした状況を受け、政府は公文書等の管理に関する法律案(公文書管理法案)を2009年3月3日の閣議決定後、国会へ提出されていた。政府による公文書管理に関する法案提出は、消費者庁の創設と同じく、福田康夫元内閣総理大臣の強い意向によるものであった。

しかし、提出された政府案は「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」が取りまとめた最終報告「『時を貫く記録としての公文書管理の在り方』~今、国家事業として取り組む~」の内容から大きく後退していた。
情報公開問題や公文書問題に取り組んできたNPO・市民活動団体関係者らは、3月17日に、市民のための公文書管理法の制定を目指す「市民のための公文書管理法の制定を求めるネットワーク(公文書市民ネット)」を結成。同日には、第1回公文書管理フォーラム「政府案検証―市民のための公文書管理」を開催し、市民のための公文書管理法を目指して活動を開始した。

参考ニュース「公文書市民ネット発足、法案を検証」 (2009/3/18)
/2009/03/その他-公文書市民ネット発足、法案を検証/

公文書市民ネットは、その後5月に下記11項目からなる「公文書市民ネット・10の提案(意見)」を発表。5月14日には市民・研究者・国会議員らを招き、第2回公文書管理フォーラム「市民のための公文書管理-国会審議に向けて」を開催し、国会での審議に当たっての市民側の意見・要望を提言した。
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公文書市民ネット・10の提案(意見)

1.公文書は「公共財」、市民には「知る権利」が(第1条関係)
2.公文書等を広義に捉える(第2条関係など)
3.公文書管理機関を3条委員会に(第5章関係など)
4.作成義務は広範に(第4条関係など)
5.取得義務の明記を
6.「政令事項」、「行政文書管理規則」へのチェック機能を(第4条から第10条関係など)
7.移管・廃棄権限を行政機関以外に(第5条、第8条関係など)
8.保存期間の判断を行政機関以外に(第5条関係など)
9.中間書庫の設置、機能を明確に(第6条関係など)
10.国立公文書館を「特別の法人」に(第15条関係など)

11.その他の重要事項として(検討事項など)
○「法律の見直し」に関する規定を求める。
○立法、司法などにおける文書管理のしくみを検討し、立法上の措置を講じることを求める。
○「公文書館法 附則の2」を削除し、専門の職員の人材養成等に関する規定を求める。
○必要な罰則に関する規定を求める。
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5月14日の第2回公文書管理フォーラム「市民のための公文書管理-国会審議に向けて」では、公文書市民ネット呼びかけ人の弁護士・日弁連情報問題対策委員会幹事の西村啓聡氏が挨拶、同じく呼びかけ人のNPO法人情報公開クリアリングハウス理事の三木由希子氏が10の提案(意見)を用いて、政府案の課題を整理し、それらへの提案を述べた。その中で三木氏は「情報公開法と公文書管理法は車の両輪のようなもの。公文書管理法で、行政機関の仕事の記録をきちんと管理し、国民のため広く共有することで『開かれた政府』を実現できる。」と訴えた。

自民党・国民新党を除く各党から参加した、民主党の西村ちなみ衆議院議員、公明党の山口那津男参議院議員、日本共産党吉井英勝衆議院議員、社会民主党重野安正衆議院議員、無所属川田龍平参議院議員ら、各国会議員も意見を述べた。

市民・研究者からの意見としては、実際の公文書管理問題に深くかかわっている沖縄返還密約情報公開訴訟 弁護団事務長・弁護士の飯田正剛氏や環境自治体会議 環境政策研究所の上岡直見氏ら4名からの発表があった。
医療問題弁護団代表・弁護士の鈴木利廣氏は、自身が経験した薬害エイズ問題や薬害肝炎問題などにおける、人間の生死を左右したずさんな公文書管理を取り上げ、公文書管理法制定による適切な管理を訴えた。

栃木県芳賀町総合情報館学芸員の富田健司氏は、地方自治体における公文書館・公文書管理の実情を報告。1850程度ある市町村の内、(公)文書館は53館、たった3%に過ぎず、3100館存在する図書館と比較しても著しく少ないことを述べた。また、公文書管理条例を制定しているのは、全国で3自治体(大阪市・ニセコ町・宇土市)のみであること、自治体の財政難による公文書管理担当職員の削減や業務縮小が始まっていること、国からの予算措置や専門職の欠如についてなどが問題提起された。これら課題の解決のために、「公文書館専門職制度の創設と牽引機関の機能強化」が提案された。


(第2回フォーラムの模様 5/14)

その後の国会審議の中で、与野党が修正協議を行い、法案は多くの修正がなされ、6月11日に衆議院を通過。6月24日に成立した。
修正案には、公文書市民ネットが示した10の提案(意見)も多く盛り込まれている。

第一条には、「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得る物ものであることにかんがみ、」が追加され、公文書が国民共有の財産であり、国民が利用できるもの(実質的な「知る権利」)であることが明記された。

第四条には、政府案の「意思の決定」「事務・事業の実績」に加えて、意思決定に至る過程や経緯、事務・事業実績を検証するために、具体的に下記に関する公文書作成義務を明記した。
一 法令の制定又は改廃及びその経緯
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三 複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
四 個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
五 職員の人事に関する事項

第八条には、公文書の廃棄について内閣総理大臣の同意が必要との規定が新設された。

第三十三条には、行政機関の廃止・統合・民営化などに伴う、公文書の廃棄・散逸や閲覧拒否などを防止するために、「組織の見直しに伴う行政文書等の適正な管理のための措置」として、下記の新たな条文が追加された。
第三十三条
 行政機関の長は、当該行政機関について統合、廃止等の見直しが行われる場合には、その管理する行政文書について、統合、廃止等の組織の見直しの後においてこの法律の規定に準じた適正な管理が行われることが確保されるよう必要な措置を講じなければならない。
2 独立行政法人等は、当該独立行政法人等について民営化等の組織の見直しが行われる場合には、その管理する法人文書について、民営化等の組織の見直しの後においてこの法律の規定に準じた適正な管理が行われることが確保されるよう必要な措置を講じなければならない。

さらに附則には、下記の第十三条が追加され、施行後5年を目途にした見直しと検討が設定された。また、今回対象となった行政府だけでなく、立法府である「国会」と司法府である「裁判所」の文書管理についても検討するとされた。
第十三条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
2 国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする。

公文書管理法が施行されれば、情報公開法と合せて、三木氏の言う「車の両輪」がようやく揃うことになる。法制定以前と比較すれば、国民に開かれた、真の国民主権に基づいた行政・政府に向けて、大きな一歩になることは間違いないであろう。ただし、公文書管理法の運用には注視していかねばなるまい。施行までの間に、行政機関が不都合な公文書を廃棄する可能性も否定できない。5年後の改正に向けた議論も継続して行っていく必要がある。
第1回のフォーラムで瀬畑源氏が述べていたが、法制定と共に不可欠なのは「公務員の意識改革」だ。公文書の作成に携わる公務員一人ひとりが、今回明記された「公文書は国民共有の財産」との認識を持つことが極めて重要となる。

市民のための公文書管理法の制定を求めるネットワーク(公文書市民ネット)は、7月1日の公布日をもって解散したが、その精力的な活動に敬意を表したい。

市民のための公文書管理法の制定を求めるネットワーク(公文書市民ネット)のサイトは下記。10の提案(意見)やフォーラムでの配布資料が入手できる。
http://kobunsyo.exblog.jp/

歴史学研究会・一橋大学大学院社会学研究科博士課程の瀬畑源氏のブログは下記。法制定までの流れや修正案の解説など、一連の内容が詳しく書かれている。
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/

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