その他 : 「新しい公共」円卓会議、資金面の支援を議論
3月16日、政府は「新しい公共」円卓会議の第3回会合を開催した。今回は「新しい公共を支える資金のあり方」がテーマ。前回に引き続き、税制面での支援策として認定NPO法人制度・寄附税制の他、NPOバンクなど金融面や法人制度面での提案も議論された。今回も鳩山首相は古本財務大臣政務官(市民公益税制PT)に対し、寄附金控除の税額控除化や3月中のとりまとめを指示するなど終始積極的な姿勢だった。
「新しい公共」円卓会議は、「『新しい公共』という考え方やその展望を市民、企業、行政などに広く浸透させるとともに、これからの日本社会の目指すべき方向性やそれを実現させる制度・政策の在り方などについて議論を行うこと」を目的に設置、1月27日に初会合、3月2日に第2回会合を開催した。
メンバーは金子郁容氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)や福原義春氏(株式会社資生堂名誉会長)、谷口奈保子氏(NPO法人ぱれっと創始者・理事長)、大西健丞氏(一般社団法人CIVIC FORCE代表理事)ら、経営者や研究者、NPO/NGO関係者など19名で構成。内閣総理大臣や副総理、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(「新しい公共」担当)が出席する。座長は慶応大学院教授の金子郁容氏。
参考ニュース「政府の『新しい公共』円卓会議が発足」(2010/01/29)
/2010/01/その他-政府の「新しい公共」円卓会議が発足/
参考ニュース「新しい公共円卓会議、NPO・寄付税制を議論」(2010/03/08)
/2010/03/その他-新しい公共円卓会議、npo・寄付税制を議論/
前回3月2日の第2回会合では、「税制のあり方について」を議論。同時並行的にNPO・寄付税制の議論を進めている政府税制調査会の市民公益税制プロジェクト・チーム(市民公益税制PT)の渡辺周総務副大臣や峰崎直樹財務副大臣も出席。
金子郁容座長は連絡会の提案にもある「仮認定」制度や事業型NPO向けパブリック・サポート・テスト(PST)の導入、寄附金控除での税額控除方式創設などを提案。鳩山首相・渡辺総務副大臣をはじめ、各委員からは積極的な発言が相次いだ。
前回の議論を受けつつ、今回の第3回会合では「新しい公共を支える資金のあり方」をテーマとし、税制面だけでなく様々な資金的支援策が提案された。
鳩山由紀夫首相をはじめ、仙谷由人「新しい公共」担当大臣や枝野幸男行政刷新相、平野博文官房長官、松井孝治官房副長官らに加え、今回は市民公益税制PTメンバーから、財務省の古本伸一郎大臣政務官が参加した。
●「税額控除」導入など寄付税制(市民公益税制PTへの指示)
鳩山由紀夫首相は「居場所と出番が中心にならなくてはいけない。いかに政府が、それとなくサポートするか。その中で、血流と言うものを活性化させるのが、『寄付税制』だ。今日は古本政務官が来ているので、ぜひともお願いしたい。できれば今月中に結論を出して、来月に結果を発表してほしい。これまでは税制は時間がかかると言われていて、前政権だったらそうかもしれないが、私達の政権ではスピーディーにこの問題について取り組みたい。繰り返すが、早急に結論を出してもらいたい。」と、市民公益税制PTメンバーの古本財務大臣政務官に対して強調した。
これに対し、古本伸一郎財務大臣政務官は「財務省としても検討している。だが、赤い羽根もそうだが、税額控除を受けられるから、寄付をするわけではないのではないか。具体的にどこまでやれるか議論していかなくてはいけない。」と述べるにとどまり、踏み込んだ発言は無かった。
さらに、会合終盤でも鳩山首相は「税制・金融のあり方について、私どもは市民公益税制PTを立ち上げて、議論してもらっている。特に『税額控除』を中心に考えて、NPO活動を活性化させるための血流を実現したい。政府がドンとお金を出すのではなく、税額控除が適当ではないか。政府とNPOはある意味で対等の関係にして行くべき。そうした発想の転換がこの国において必要とされている。」と寄付税制における税額控除実現を再度強調して、強いこだわりを見せた。
「今月中に市民公益税制PTにおいて、結論を出すよう指示を出したところだ 。言いっぱなし・聞きっぱなしの円卓会議では意味がない、スピード感のある政府になりたい。」とも述べるなど、当初4月末を予定していた市民公益税制PTのとりまとめは、3月中を目途に早急に行うよう指示した。
その他、当日は以下のような議論があった。(以下、話題ごとに整理)
●社会起業のインパクト拡大(スケールアウト)
井上英之委員(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)が資料に基づき、社会的企業におけるスケールアウト(「組織の成長」より大きく「社会的インパクトの拡大」を実現していくこと)の必要性を説明。
米国で子どもの遊び場・公園づくりをコミュニティ参加型で行っている「KaBoom!(カブーム)( http://kaboom.org/ )」を例に挙げ、スケールアウトの方法として「完全所有型・アフィリエーション型・情報提供型」の3つを紹介。「カブームは、当初は直営で公園を作っていたが、途中から方針を転換。ノウハウをネットで公開し、市民が自発的に公園を作るよう促していく戦略を採った。結果として、2008年までの13年間で、直営:200園、ノウハウ共有:1200園、合わせて1400園の公園が生まれている。」とスケールアウトに成功した事例を語った。「日本でもカブームのように、ITを活用するなどして活動を広げていく必要がある。 」と提案した。
●寄付推進の仕組みづくり(寄付推進機構)
続いて、佐野章二委員(ビッグイシュー日本代表)も資料に基づき、京都地域創造基金( http://www.plus-social.com/ )をモデルとした「新社会創造基金」や「寄付推進機構」の創設を提案。寄付推進機構は寄付者の立場になって、寄付を促進する団体。「他国と比較し、日本の個人寄付金額は大変少ない。赤い羽根共同募金も減っている。しかし、日本は寄付額は少ないが、寄付マインドがないとは思わない。自分達もファンドを作ったが、かなり集まった。寄付を推進すれば、寄付は集められる。」として、寄付を推進するための組織創設を訴えた。
●「新しい公共」を支える金融(NPOバンク・信用生協)
金子座長は「新しい公共」を支える金融について言及。「民間からの資金の流れが大変乏しいことを指摘したい。これまでNPOバンクが努力してきてくれたが、20億足らずとまだまだ細い。様々な制約があるのではないか。」とNPOバンクに関連する規制が活動を制約している可能性を示唆。また、同様の問題として「生協では『岩手県消費者信用生活協同組合( http://www.iwate-cfc.or.jp/ )』が多重債務者の支援に大変成果を出している。隣の青森県が一緒にやりたいと考えたが、生協法によりスケールアウト阻まれている。」と指摘し、金融に関係する規制緩和の必要性を指摘した。
これに関連して大西健丞委員(公益社団法人Civic Force代表理事)は「我々がNPOにお金を貸そうとした。無利子で貸そうとしたのに、政府には金融業と言われた。なぜ無利子なのに金融業なのか。我々は常にそうした馬鹿らしい制約に悩まされている。ぜひ、政府の窓口を創ってほしい。」 と訴えた。
●企業からNPOへの資金供給(市民社会創造ファンド)
金田晃一委員(武田薬品工業株式会社コーポレート・コミュニケーション部シニア・マネジャー)は企業からNPO・市民セクターへ資金を供給する仕組みとして「市民社会創造ファンド( http://www.civilfund.org/ )」の取り組みを紹介。「実績は640件、約8億円のお金が企業から市民社会に流れている。企業が自分の実現したいテーマを提起。それにトライするNPOに対して資金を提供する。このような新しい流れもある。」と実績を述べた。
●若者のインターンプログラム
島田京子委員(日本女子大学共同教職大学院設置準備室室長)は「アメリコープ( http://www.americorps.gov/ )という仕組みに倣ってインターンシッププログラムを創った。社会的な志を持った若者を企業で育てていきたい。」と意気込みを語った。
●新しい公共の仕組み全般
寺脇研委員(京都造形芸術大学芸術学部教授)は「一般の国民の皆さんからすると、『新しい公共って何?』という段階。お婆ちゃんでも、すんなり対応できるような、シンプルなシステムにしていく必要があるかなと思う。」と簡素な仕組みが重要とした。
●国とNPOセクターの協定(コンパクト)
福嶋浩彦委員(前我孫子市長)は「新しい公共というのは大きな捉え方をした方が良い。」として、以下の3点を提示。「1.国民の声が届く、より良い政府になる/2.新しい公共を担う民の主体が育つ制度づくり/3.政府と民との連携の姿を改善していく」。それに向けた現状の問題点として「国では、政府系公益法人などが過剰なコストで事業を行い、NPOを排除している。地方では、公共サービスの安い下請けとしてNPOを使っている。」と指摘。前回同様に「国とNPOセクターの連携を規定した協約、イギリスでいう『コンパクト』が必要。」と改めて提案を行った。
●公益法人も含めた議論の必要性
寺脇研委員は「公益法人も、元はNPOのような志で始まっている。しかし、ある時期から、政府や自治体の資金がもらえることから、変質して行ってしまった。公益法人の中にも、志のあるところも一部だがある。公益法人とNPOを分けて考えずに、両方を同じテーブルで考えていくアプローチもありうるのでは。」と提案。
これに対して、松井孝治官房副長官は「公益法人はフルコストリカバリーどころか、過剰コストリカバリー。」と応じた。
●新しい公共を担う多様な主体と政府の関係
松井官房副長官は「市民や町内会、NPOなど、多様な主体が新しい公共を担っている。『政府がどのようにそうした主体と付き合っていくのか』ということを再整理する必要がある。豊かな民を支えるために、どうしたら良いか。新しい公共を支える主体と政府の関係を決めていかなくてはならない。大西委員の言うように新しい公共に関する窓口を創ることも、本会議の重要なアジェンダだろう。」と述べ、新しい公共を担う多様な主体と政府との関係を再整理することに言及した。
これに、佐野委員は「新しい公共の担い手には様々なものがある。確かに町内会も良いだろう。しかし、決定的に重要なのは『若い人をいかに参入させるか』だ。NPOは新しい制度なので、若い人が入ってきてくれる。」と若者参加の面からNPOのメリットを述べた。
●新しい公共づくりへの参加
続けて、横石知二委員(株式会社いろどり代表取締役社長)は「地方を活性化するのが私の役割。若者が最近入ってきてくれて、地方で居場所と出番を見つけてくれる。大企業の中から、地域の中に入る若者も出てきている。しかし、地域にプロデューサーがいない。国民に『出番と居場所』を。1人1人が新しい公共に参加できるような仕組みづくりが必要だ。」と地方・地域に参加する若者を紹介する一方、課題を提起。国民一人一人が新しい公共づくりに参加できる仕組みの重要性を訴えた。
●公益法人とNPO法人、公益認定など
公益法人に関して、枝野幸男行政刷新相は「公益認定は作業が滞ってきた。要件の見直しも行っているところだ。政府系公益法人を見ていくと、新しい公共とは全く違う世界がごろごろと転がっている。『公益法人と言うのは、NPOがあるのに必要なのか』と個人的には思う。しかし、公益法人改革をしたばかりなので、動かしづらい。医療法人を含めた非営利セクター全体像は、誰も見えていない。」 と現状を整理した。
金子座長は「法人制度もそうだが、業法自体も大変複雑。」と付け加えた。
●災害対策プラットフォーム
大西委員は、資料に基づき「企業・自治体・市民の災害対策のプラットフォームを作る必要がある。必要のは<正統性>。民間企業が災害支援するということに、市民にはまだ抵抗があるのが現状。日本ではコーディネイション・ボディ(各セクターの役割を調整する機関)が不足しているのではないか。」と問題を提起。災害対策プラットフォームの必要性を訴えた。
他に、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹氏が提案した「社会事業法人」については、次回詳しい説明があるようだ。
今後は月2回のペースで会合を開催。5月下旬の第8回会議でとりまとめを行うスケジュールが確認された。
「『新しい公共』円卓会議」については、内閣府サイト内、下記ページを参照。会議資料の入手や会議動画の閲覧が可能。
http://www5.cao.go.jp/entaku/index.html
※本記事作成には、当日の駒崎氏・今村氏両氏によるTwitter実況、伊藤氏作成によるまとめを参考にさせていただいた。この場を借りて感謝申し上げたい。
http://togetter.com/li/9684