【セミナー報告】 9/4 宮崎 環境NPOのための政策提言入門セミナー
1.実施概要
2.セミナー要旨
(1)はじめに
主催者(GEOC星野、シーズ北澤)よりセミナー開催の挨拶、主旨説明を行った後、環境政策提言の基本的な進め方について、シーズ北澤より解説を行った。
CDB-COP10の成果と課題を踏まえ、愛知ターゲットの内容と日本の政策やNGOの役割について発表された。
【発表のポイント】
•COP10決議には拘束力はないが、日本も世界基準の政策を「やります」と宣言した点に意味がある。
•今後10年間に取り組むべき目標である愛知ターゲットとその戦略目標について解説。
•現在、都道府県で、生物多様性地域戦略が徐々に策定されているが、まだ愛知ターゲットが十分に生かされていない状況にある。
•日本が政策課題(国家戦略・地域戦略)として実施していく中で、愛知ターゲットを生かせるか否かはNGOの活動にかかっている。
•具体的な取り組みとして、愛知ターゲットに取り組む団体を応援する「にじゅうまるプロジェクト」、大切に残したい自然を登録して守る「生物多様性の道プロジェクト」を紹介。
(3)講演② CEPA-JAPAN 川廷昌弘
NGOと民間企業のノウハウを併せ持ちながら、生物多様性に関する普及啓発活動に取り組むCEPA-JAPANの目指す姿や、地域のNPOに求められる役割、普及啓発活動の事例について紹介された。
【発表のポイント】
•生物多様性は人類存続の基盤であり、広く、市民に普及啓発していく事が必要である。
•市民の共感を得るためには、メディアやオピニオンリーダーの活用は重要である。これまでに、オリンピック、Jリーグ、プロ野球などのスポーツ選手にチャリティーでPRに参加してもらう事で効果をあげている。
•横浜では、地域や学校での取り組みを広げていくために、ワークショップを行い、ラジオを活用して意識を広めたり、マリンタワーの展望台で、地域の自然や環境問題を表現するホワイトフレーム(白い額縁)を通して景色を眺める試みを行っている。
(4)事例紹介:ひむかの砂浜復元ネットワーク:林裕美子
宮崎の砂丘と砂浜の保全・復元をテーマに活動する、ひむかの砂浜復元ネットワーク、林氏より砂浜の調査、普及啓発等の取り組みとその課題について発表された。
【発表のポイント】
•宮崎では、砂浜・砂丘・海岸林といった土地は、生産性の低い土地であるとみなされ、1970年~80年代に道路、ホテル、ゴルフ場が作られ、護岸工事が進められていった。
•砂浜は、台風などにより狭まったり、削られたりするため、海に持ち去られたように見えるため、護岸工事の理由とされてきたが、波が穏やかになると、波の力で海の砂が再び戻され、砂浜と砂丘は自然に復元されていく。
•護岸工事が必要だと主張する人も、砂浜を保全したい人も、砂浜に関する確かなデータのないままに議論が進められていた。砂浜の客観的なデータの必要性を感じ、台風の前後での砂浜の高さを観測してデータ化する活動を行うとともに、シンポジウムなどを開催し、普及啓発活動を進めている。
(5)ディスカッション
会場から付箋紙をつかって、感想や質問を受け付けた後、政策提言活動を軸に、パネルディスカッション形式で、議論を行った。
A)「豊かな地域を保つためにできること~NPOとして個人として~」
各参加者の自己紹介を行い、普段の活動内容や日々感じていることをお話しいただいた後、これを皮切りに九州地域の生物多様性のために市民としてどう活動していったら良いか、川廷氏のアドバイスも交えながら議論した。
【議論のポイント】
•自然の中で市民が自然を知り親しむ機会を増やすために、案内板などを設置したらどうかという案も出たが、一方で景観を損なう可能性もあるので、機会を増やすためのアイデアを市民団体が検討していく価値がある。そのために、市民自らが行動を起こしていくことが重要。ガイドボランティアの養成や、会報発行などの広報の方法などが挙げられる。
•鉄塔建設の反対運動から転換し、照葉樹林を復元して緑の回廊としてつなぎ、世界遺産への登録を目指す運動へと変わってきた。反対運動から行政との連携運動へと発展していった。
•照葉樹林の復元は、この地域の生物多様性保全につながるが、森だけではなく農業や海岸も含めたり、伐採する針葉樹の活用を考えたりすることが、地域固有の文化を受け継ぐことにもなり、「生物多様性」が持つ魅力がある。ここに、「生物多様性は楽しい」という価値転換が起こり、この楽しさを広く一般に伝えていくこともNPOの役割である。
•地域の生物多様性が持つ魅力は、地元の人がその価値に気付いていないことが多く、専門家や行政が保全活動に取り組んでいることが多い。今後は、地域の子どもたちが地域の宝を自ら体験し守っていく力「郷土愛(トコロジスト)」を育てていく必要があり、地域の宝コンテストのような企画を考えたらどうか、という案が出た。
B)「提言から実現へ〜アドボカシー活動のポイントを考えよう〜」
ひむかの砂浜復元ネットワークの活動を例に取り上げ、課題発見、解決策の検討、企画化、実行・・・というステップに沿って、活動の課題とその解決策について議論した。
【議論のポイント】
•基本的に砂浜が減少すると何が問題なのか、共有する必要がある。砂浜が無くなると、そこでの活動も思い出も出来なくなると主張する人もいれば、砂浜はそれほど重要ではないと主張する人もいる。
•開発を行い港での輸送や経済活動を優先させるのか、憩いの場、漁業の場、防災といった砂浜の価値を優先させるのか考える際に、砂浜の価値は目に見えづらいため、価値を分析し、受益者を明らかにし、それを可視化する事が必要である。
•海岸浸食対策事業への市民参加は実現したが、砂浜の保全を訴えても、T字型突堤案がI字型突堤案に変わった程度で、根本的な変化を起こせなかったという見方もある。しかし、それらを1つの前進ととらえて、次のステップを検討する事も必要。
•海岸浸食対策事業が県の事業から国の直轄事業になった経緯に注目して、ステークホルダーとしての行政がどのような立場にあるのか考えてみる必要がある。
•「広い砂浜を取り戻す」という社会的な効果を得るために、直接的な成果として何を勝ち取るのか?そのために何を捨てカードとして持つのかという考え方が必要ではないか。
(6)まとめ
各班の内容について発表会を行った後、講師より一言ずつコメントをいただいた。
最後に、環境アドボカシーに関して、広域で活動するNPO、地域で活動するNPO、普及啓発を専門とするNPOがそれぞれどのような役割を果たし、連携すればよいのかについて確認し、閉会した。