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社員は無限責任or有限責任? 投稿者:KOI 投稿日:2005/11/28(Mon) 05:26:00 No.5401
NPO法人の構成員(NPO法上の社員)は、無限責任か有限責任かどちらでしょうか?
根拠を添えてお教えください。

また、法人格を持たないNPOの構成員(総会で議決権のある者)は、
無限責任か有限責任かどちらでしょうか?
根拠を添えてお教えください。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/11/28(Mon) 20:53:00 No.5402
 この点について誤解している方が多いように思われますが、正しくは以下の通りです。


1、御質問の「NPO法人の構成員(NPO法上の社員)」も「法人格を持たないNPOの構成員(総会で議決権のある者)」も、どちらも「責任」はありませんので、「有限責任」でも「無限責任」でもありません。

2、債権の目的である「ある給付をしなければならないという拘束(義務)」を「債務」といいます。そして、その「債務」が履行されない場合のために一定の財産が担保(引き当て)になっていることを「責任」といいます。

3、そして、債務者の全財産が債務の担保(引き当て)となっている場合を「無限責任」といい、債務の担保(引き当て)となるのが、債務者の財産中のある物あるいは一定額に限定されている場合を「有限責任」といいます。

4、たとえば、株式会社の場合、株主は株式の引受により会社に対して会社の活動のために必要な「資本」を提供していますが、この資本は会社財産となって会社の債権者に対する債務の担保となっています。しかし、株主個人は 会社の債権者に対して直接的に責任を負うことはありません。
  従って、株主は株式の引受により提供した金額を限度に、間接的に会社債権者に対して責任を負うことになります。
このように、出資した額を限度に「責任」を負う場合を「有限責任」といいます。
  株式会社の株主や、有限会社の社員の「責任」は、出資した額を限度とする「責任」ですから、「有限責任」となります。

5、これに対し、合名会社の場合は、社員が会社債務について無限の(「債務額全額の」という意味です)責任を負いますから、その責任は「無限責任」となるわけです。

6、ところがNPO法人の社員や、「法人格なき社団」の実体を持つ任意団体の構成員は、何らの出資もしていませんので、当該法人や団体の債務について、何らの「責任」も負っていません。言ってみれば「責任なし」ということであり、「有限責任」でも「無限責任」でもないことになります。
  しばしば、“NPO法人の社員は有限責任である”と誤解しておられる方がいますので、この際認識を改めて下さい。

7、なお、何でも質問箱に、
「NPO法人は無限責任だと言い切る方がいます。本当に無限責任ですか?」(何でも質問箱NO.5696)
という質問がありますが、この質問の場合は構成員である社員の責任ではなく法人自身の責任のことですので、この回答はNPO法人は「無限責任がある」ということになります。構成員である社員の責任と法人自身の責任とは違いますので注意してください。

8、このような「債務」とか「責任」、「有限責任」、「無限責任」という言葉の法的な意味については、民法の「債権総論」の教科書、商法の「会社法」の教科書や、法律辞典を見てください。これらの概念は、債権総論や会社法を学ぶときの基礎的な概念です。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:KOI 投稿日:2005/12/01(Thu) 01:03:00 No.5403
頭の中が随分整理できたことで、すっきりしてきました。
不勉強で恐れ入りますが、1点追加質問させてください。

NPO法人は「無限責任」で、その構成員である社員は「責任なし」とのことですが、
この場合、そのギャップはどのようにして埋め合わせることになるのでしょうか?
(債権者にとって酷になることはないのでしょうか?)

すなわち、NPO法人の負った債務を法人自体で履行できない場合(とはいえ、法人
として存続させる意思のある時)、その債務は誰がいかなる範囲で負担することに
なるのでしょうか?
(社員の連帯保証責任とはならないのでしょうか?)

法人が債務履行した後に当該債務の原因となった問題のある理事等に対して損害
賠償を求償するといった2次的な段階ではなく、差し当たり法人が債務履行する
ための負担者という1次的な段階でお教え頂ければ幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/12/01(Thu) 10:55:00 No.5404
1、ある団体に「法人格」があるということは、その法人自身が権利や義務の主体であることを意味しています。 従って、その法人の権利も義務も、その法人自身に帰属します。
  だからこそ、人々は安心してその法人の構成員になることができます。もしその法人の債務を構成員が負わなければならないとしたら、法人の構成員になることは大きな危険を負担することになり、構成員として法人の活動に参加しようとする人はほとんどいなくなってしまいます。
  また、法人の財産が構成員の財産ではなく法人自身の財産として独立しているからこそ、法人が独自に活動し存続していられるわけです。

2、従って、「無限責任」(これは、債務額の範囲で「無限に」責任があるという意味です)があるNPO法人が、その債務を弁済できない場合、債権者は債権を回収できないということになります。構成員は、法人の債務については「責任なし」ですから、債権者は結局のところ債権回収ができません。 そのNPO法人が存続している場合、債務が消えるということはありませんから(但し、消滅時効や債務免除などの場合を除く)、
  ・債権者は、「取れない」債権をそのNPO法人に対し有している
・そのNPO法人は「払えない」債務を負ったままでいる
 という状態が続くことになります。

3、法人が「債務を完済することができない」場合は、理事は「破産手続開始の申立」をしなければなりません(NPO法40条、民法70条)。破産手続きが開始されると、法人は解散し、破産手続きの中で債務の清算をすることになります。
しかし、この破産による清算は、当該法人の全ての資産を現金化し、それを全ての債権者の債権額に応じて案分するというものですから、ほんの少しは回収出来るかもしれませんが、ほとんど回収できないというのが実情です。
また、破産手続きをするにもかなりのお金と労力が必要ですので、会社などの場合、破産手続きをすべき場合であるのに、そのままほったらかしになっているケースも珍しくありません。(というより、そのようなケースの方が圧倒的に多いと思われます。)NPO法人の場合、まだ歴史が浅いので、このようなケースがあまり生じていないと思われますが、いずれ沢山でてくるのではないかと思います。

4、かくして、ご質問の「ギャップ」は遂に埋められません。債権者として  は、「泣き寝入り」するしかないわけです。
そもそも、「債務」が履行されるかどうかは、債務者の資力・信用にかか っています。従って、それを良く見極めた上で債権債務関係を生ずる取引を するべきだということになります。
5、ただ、社員が当該NPO法人の債務について「連帯保証」をしている場合は、その連帯保証契約に基づき当該NPO法人の債務について支払義務が生じます。ただこれはあくまで「連帯保証契約」という別個の法律行為(契約)がなされた場合に限ります。
  社員だからといって、自動的に当該法人の債務を連帯保証したことにはならないことに注意してください。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:トーマス 投稿日:2005/12/01(Thu) 23:16:00 No.5405
横からすみません。

質問を見ていて思ったのですが、
NPOは無限責任ということは、NPOが借金を抱え返済できない場合、
理事長や理事の役員は、理事の個人財産を提供しないといけないのでしょうか?
それとも、NPO自身の財産を提供すればいいということでしょうか?

また、有限や株式は有限責任だと解釈していますが、
この場合も、社長や役員は個人財産を提供しないといけないのでしょうか?
それとも、会社自身の財産を提供すればいいのでしょうか?
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/12/02(Fri) 11:36:00 No.5406
ご質問にお答えします。
 
1、NPO法人の借金は、あくまでそのNPO法人自身の借金です。
  理事長も理事も、NPO法人の「機関」にすぎません。小泉総理は日本国の「首相」という「機関」を務めていますが、国の何百兆円という借金について“私財を提供して弁済しなければならない”などということにはなりま せん。NPO法人の場合もそれと同じことです。
NPO法人の債務(借金)は、当該NPO法人の財産だけが“責任財産”であり、理事長や理事の財産は責任財産ではありません。
2、また、会社の社長や役員も会社という法人の「機関」ですから、全く同じように考えることができます。社長や役員は、会社の債務について個人責任はありません。
3、なお、理事や社長などが、その債務について連帯保証契約をしている場合は、その連帯保証契約に基づいて責任を負うことになりますが、それは全く別の法律原因に基づく責任です。
  また、理事長や理事がNPO法人の業務をする中で、例えば詐欺行為等をして他人に損害を与えたような場合には、そのことを原因として理事長や理事に個人責任が生ずる場合がありますし、また当該NPO法人の目的の範囲外の行為をして他人に損害を与えたときも個人責任が生じます。
  しかし、その責任はその理事長・理事がNPO法人の理事長・理事という地位にあるからという理由で生ずるものではありません。その行為自体が法律に違反するという理由で、当該行為をした行為者に責任が生じるだけのことです。

“機関”:法人その他の団体の意思の決定または実行に参与する地位にあって、その行為が法人の行為と見られる者。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:KOI 投稿日:2005/12/08(Thu) 16:43:00 No.5407
浅野先生、明快なご回答をありがとうございます。

株式会社:無限責任、株主:有限責任、ギャップのリスク負担:債権者。
合名会社:無限責任、社員:無限責任、ギャップ:なし。
NPO法人:無限責任、社員:責任なし、ギャップのリスク負担:債権者。
法人格のないNPO:無限責任、構成員:責任なし、ギャップのリスク負担:債権者。
という整理で、よくわかりました。

ただし、法人各のないNPO(もっと言えば、「法人格なき社団」の実体を持たない
任意団体)の場合、契約主体は代表者個人となっているかと存じます。
この場合、代表者:無限責任、構成員:責任なし、ギャップのリスク負担:債権者
と読み替えられてしまうのでしょうか?
(機関ではない、構成員の一人に過ぎない代表者のみに責任が圧し掛かるのは、
 少々酷ではないでしょうか?)

恐れ入りますが、この点を追加質問させて頂きます。よろしくご教示願います。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/12/12(Mon) 18:58:00 No.5408
社団の実態を持たない任意団体の場合は、その団体には権利義務の主体となるべき資格がありませんから、責任の主体は当該行為をした代表者個人と言うことになってしまいます。
 但し、「当事者が出資をして共同事業を営むことを約束していた」という事情があるときは、民法上の「組合」契約があるということになり、その約束をした人たち全員が責任を負う場合があります。(民法667条、675条)
 このような「組合契約」があると言えるのかどうかは、個々のケースで、どのような約束をしていたかによりますが、単にその団体の目的に賛同してして会員となったという程度では、組合契約があったとは考えられません。また、NPO活動の場合「利益の分配」ということがありませんので、この意味からも、単なる会員について民法上の組合員として責任を問われるということはないと解されます。
かくして、社団の実体を持たない団体の場合、その代表者は、仮に団体の代表者として行為をしても、その責任は全て代表者個人で負わなければならないことになるわけです。
回答が遅くなって申し訳ありません。

                            弁護士 浅野晋
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:KOI 投稿日:2005/12/14(Wed) 14:07:00 No.5409
浅野先生、明快なご回答ありがとうございました。
全体としてきっちり整理され、とてもすっきり致しました。

関連してもう一つお伺いしてもよろしいでしょうか?

中間法人は、有限責任中間法人と無限責任中間法人に分類されると思います。
有限責任中間法人は、基金制度があり、社員総会・理事・監事といった機関を
設けてその運営を行うのに対して、無限責任中間法人は、基金制度がなく、
社員が業務の決定や執行等を行います。

前者の社員は、法人の債務について対外的な責任を負わないのに対し、
後者の社員は、法人と連帯して債権者に責任を負う(97条)かと
存じますが、この辺りの整理が、NPO法人や法人格なきNPOにおける
社員や構成員の責任に関する解釈に、何らかの影響を及ぼす可能性は
いかがでしょうか?
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/12/19(Mon) 18:07:00 No.5410
回答が遅れてすみません。

中間法人法の定めが、NPO法人や法人格なきNPOにおける
社員や構成員の責任に関する解釈に、影響を及ぼす可能性は全くありません。
中間法人法は民法やNPO法と全く別個の法律ですし、また中間法人法は、一般法である民法の特別法ですから、民法の解釈が中間法人法の解釈に影響することはあっても、その逆はありません。
                     弁護士 浅野晋
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:KOI 投稿日:2005/12/22(Thu) 09:19:00 No.5411
浅野先生、各質問にご丁寧にお答え頂きまして、誠にありがとうございました。

「NPO法人の社員は出資なしにより、有限責任でも無限責任でもなく、
法的には責任なし。ただし、NPO法人は無限責任」という整理は、
とてもよくわかりました。

最後にもう1問だけ、追加質問させてください。

不勉強で申し訳ありませんが、「出資」と「会費」と「寄付」は、
法的にはどのように定義・区別されるのでしょうか?
その各々を判別する具体的な構成要件を、お教え頂けますと幸いです。

何卒よろしくお願い申し上げます。
Re: 社員は無限責任or有限責任? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2005/12/28(Wed) 13:45:00 No.5412
あっという間に年末です。
あくせくしている内に回答が遅くなって申し訳ありません。

 「出資金」、「会費」、「寄付」という言葉に厳密な定義があるわけではありませんが、概ね次のような趣旨の言葉です。
 「出資」……一般に、ある事業を営むための資本として、金銭その他の財産、信用、労務を提供することをいいます。この出資によりその事業が収益をあげた場合、その利益の配分を受ける権利があることが多いと思われますが、必ずしもそうでない場合もあります。
「会費」……団体の規約に基づき、その団体の運営に要する費用に充てるため団体の構成員に支払を義務づけられる金銭。
「寄付」……贈与契約により支出または移転される金銭その他の財産。
なお、「出資」の場合、例えば株式会社の株主とか、協同組合の組合員とか、出資することが当該の地位を取得する要件であることもあります。このような場合を除き、出資するか否かはその人の自由です。
「会費」は、団体規約に基づき課せられるもので、その規約に会費の支払いが義務づけられているときは、会費の支払いは団体契約上の義務となります。
「寄付」の場合は、そのことについて何らかの契約があるときは別として、寄付するかしないかは寄付する人の自由です。

なお、これらの言葉がいくつの法律で使われているのかをインターネットの「法令データ提供システム」(http://law.e-gov.go.jp/) で調べてみましたら、
出資……449
会費……20
寄付……8
ということが分かりました。キーワードで全ての法令が簡単に検索できますので、お暇なときに試してください。
良いお年をお迎え下さい。
弁護士 浅野 晋

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