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法人成立前の理事会について 投稿者:ショーヘイ 投稿日:2006/02/22(Wed) 16:35:00 No.5702
定款で主たる事務所の所在地を最小行政区までしか定めていません。

その場合、設立登記の時に主たる事務所の住所地を決定した理事会(または総会)の
議事録が必要だと聞いたのですが、少し気になる点がありますのでご質問します。

定款の附則に「この定款は法人成立の日から施行する」と記載しています。

この場合、定款で定められている「理事会」(または「総会」)という機関は、定款施
行前は存在しないことになると思うのですが。

法人の成立を設立登記手続き完了時だとすると、設立登記前に開催した理事会の決定は
有効なのでしょうか?

もし、総会や理事会の決定が有効でないとしたら、どうやって設立登記をすればよいの
でしょうか?
Re: 法人成立前の理事会について 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2006/02/23(Thu) 00:26:00 No.5703
ショーヘイ さん

1、この問題は、「法人の設立」行為というものが、いったいどのような法律 行為であるのかという視点で考える必要があります。
結論的には、法人成立前の総会や理事会等の決議は、法人成立後もそのまま当該法人に引き継がれます。
このことを理解するには、少々ややこしい話になりますが、我慢して読んでください。

2、まず、法人設立の過程を段階を追って考えてみると、次のような諸段階に 分けられます。
①発起人が集まって、どのような法人を作るかを話し合う。
②話し合いの結果、次第にその法人の具体的骨格が決まってくる。
③その骨格が「定款」という形できまり、また、発起人はその他の諸々の事項についても決定する。=権利能力なき社団としての実体の形成
  ④発起人代表が、その権利能力なき社団についての代表として、法人格を取得するための手続をする。(NPO法人の場合は認証申請)
⑤所轄庁の認証(NPO法人の場合)
⑥登記→これによりNPO法人が成立

3、さてここで、③の時点で形成された「権利能力なき社団」としての実体と、⑥で成立したNPO法人との関係はどのように考えたらいいのでしょうか。
はたして、同じ存在なのでしょうか、それとも違う存在なのでしょうか?
これをどう考えるかが、本件のポイントです。

4、実は法的には、同じ存在と考えます。すなわち、③の時点で形成された「権利能力なき社団」としての実体は、「設立途上の法人」であると考える のです。そして、この権利能力なき社団の実体に「法人格」という資格が付与されて法人となると考えます。
  すなわち、法人格を付与される前と、付与された後で、社団としての団体の実体には何の変わりもありません。③の時点で形成された「権利能力なき社団」としての実体と、⑥で成立したNPO法人とは全く同一の存在なのです。
    社団の実体=権利能力なき社団
社団の実体+法人格という資格=法人
というわけです。
このことは、例えばAという人が「医師」という資格を取得した場合を考えるとわかりやすいかもしれません。A氏は、医師という資格を取得した後も、依然としてA氏のままです。そして「医師」という資格を取得したA氏は、医師Aとして医師の資格で診療等ができることになります。すなわちA氏は、医師という資格を取得したけれど、依然としてAである事に変わりはありません。

5、従って、例えば、③の「権利能力なき社団」の時点で、その団体が何らかの財産を獲得した場合に、その後⑥の段階に達して法人格を取得しても、その財産は何らの移転行為(売買とか贈与とか)も必要とせず、当然のこととしてその法人の財産となります。これは、実体を有している社団が、法人格を取得しても、社団たる実体に変わりがなく権利義務の主体として同一であると解されるからです。

6、もちろん③の段階では法人格はありませんから、法人としての理事会は存在しません。しかし、その団体が権利能力なき社団として認められるのはその団体が、実質上定款と同じ内容の根本規則を持ち、発起人が理事としての職務を果たしていると考えられるからです。
  従って、発起人会なり設立前の総会で決定したことは、そのまま法人成立後のNPO法人に承継されると考えることになります。
6、このような考え方については、民法の教科書で民法総則の法人のところを読むと書いてあります。
7、さて、法人の設立は、
   a、それまで全く存在しなかった団体を新たに作って、法人を設立する場合
   b、従来から存在する権利能力なき社団が法人格を取得する場合
 の2通りあります。
このbの設立の仕方を「法人成り」といいますが、どういう訳か所轄庁はこの「法人成り」を認めていません。

8、民法の注釈書として定評がある有斐閣の「注釈民法」という本は、法人の「設立行為」について、「社団たる性格を有する団体に法人格を取得させようとする意思表示、つまり本条(注:民法第37条)所定の定款作成行為として行われると観念するのが一般である。」(注釈民法(2)203頁)と記載しています。
  すなわち、法人の設立行為というものは「社団たる性格を有する団体」に対し、法人格を取得させようとするものであるということですから、法人格が付与されるべき団体は、社団としての性格を有していれば良いのであって、その団体が従来から活動していた団体であろうが、新たに創設される団体であろうが、どちらでもよいことになります。
  ただ実際には、従来から社団として活動してきた団体が、新たに法人格を 得るために、法人設立行為をして法人格を取得するというのが多いと思われ ます。これが先に述べた権利能力なき社団(団体)の「法人成り」という法 人格取得の形態です。
9、所轄庁がこの「法人成り」を認めていないのは、恐らくNPO法が制定されてしばらくして出版された、経済企画庁国民生活局余暇・市民活動室編の「Q&A ここが知りたいNPO法 法人格取得マニュアル」の62ページに、「新しく設立される法人は、従来の任意団体とは法律上は別個の組織であ」る、と記載し、この「法人成り」という形態を認めなかっためであると思われます。そして、ほかの所轄庁はこれに「右にならえ」してしまいました。
 しかしこのマニュアルには、新しく設立される法人が、どうして従来の任意団体と「別個の組織」であるのかについて、その法的根拠は何も書かれていません。従って、このマニュアルがどうしてこのような考えにたつのか、その理由はわかりませんが、おそらく法人設立行為の法的な側面をよく調べもせずに、思いつきで書いてしまったのではないかと思います。このマニュアルは間違っています。
10、注釈民法のように、「設立行為」というのを「社団たる性格を有する団体に法人格を取得させようとする意思表示」と解するときは、法人の設立行為というのは、従来の任意団体が「法人格」という資格を取得するだけで、社団としての実体は同一であると考えることが出来ることになります。
11、また、NPO法第1条も、「特定非営利活動を行う団体に法人格を付与することに等により」と記載しており、むしろ、従来から活動してきた任意団体に対して、法人格という資格を付与するのだという趣旨であることを示しています。
  そもそも、市民活動団体に法人格を付与することにより活動を促進するというのがNPO法の制定趣旨ですから、実際に活動している任意団体が、団体としての同一性を保持したまま法人と成ることを否定することは、NPO法制定の趣旨にも反することになります。
  なお、民法の社団法人については、判例(※)は一貫してこの「法人成り」を認めております。NPO法人についてこれと異なる解釈を行う理由も見当たりませんから、判例上もNPO法人について「法人成り」を認めているといっていいと思います。
(※)例えば、大審院昭和10年7月31日民三判決(法学五巻347ページ)、昭和35年3月14日東京高裁判決(判例時報230号14ページ掲載)や昭和55年11月27日高松高裁判決(判例時報998号73ページ掲載)など。

 おわかりになったでしょうか?

弁護士 浅 野  晋
Re: 法人成立前の理事会について 投稿者:ショーヘイ 投稿日:2006/02/23(Thu) 14:19:00 No.5704
浅野先生

丁寧なご説明ありがとうございました。

そこで、お手数ですが、再度ご質問させていただいてよろしいでしょうか。

法人成立前も成立後の同じ権利義務の主体であるということは理解できました。

しかし、附則に「この定款は法人成立の日から施行する」と記載している定款は、
法人成立前でも有効なのでしょうか?

と言いますのは、法人成立前に開催する理事会(主たる事務所地の決定が目的)で、
定款に沿って各種規則の制定や人事などを決めてしまおうと考えています。

しかし、定款が有効でない状態の理事会であれば、定款に沿って制定した規則などが
無効になってしまうのではと心配しております。

お手数ですが、よろしくお願いします。
Re: 法人成立前の理事会について 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2006/02/26(Sun) 23:56:00 No.5705
ショーヘイ さん

1、「しかし、附則に「この定款は法人成立の日から施行する」と記載している定款は、法人成立前でも有効なのでしょうか?」
      ↓
    ・この附則が施行されるのは法人成立後ですから、この定款自体は法人成立前には効力を有しません。

    ・しかし、この定款を制定した設立の発起人会は、特段の合意をしなくても、この定款の定めを「準用」する内容の規約を有する団体として権利能力なき社団としての実体を形成していると解するすることができます。

    ・すなわち、発起人会自体が「規約」を作り、「権利能力なき社団」としての実体を備えた場合には、発起人会の社団性が明確になりますが、わざわざそのような「規約」を作らなくても、法人成立後有効となる「定款」を作った時点で、その定款の内容と同じ内容の「規約」を持った社団たる発起人会が成立し、それが後日「法人格」という資格を取得して法人となると考えるわけです。

    ・この場合、発起人会の「規約」は「定款」の「準用」ということですから、定款のうち法人成立後に適用される条項は、発起人会の「規約」としては適宜修正されて適用されることになります。

    ・従って、法人成立前の理事会(法的には理事会ではなく発起人会ということになると思いますが)で決めたことは、法人成立後も有効です。


2、なお、法人成立前の理事会の議決の有効性が心配だということでしたら、念のため法人成立後の理事会なり総会で、発起人会が決めたことの有効性を確認する旨の決議をしておけば、その心配はなくなります。


3、以上の議論は、全く新たにNPO法人を設立する場合のことですが、従来法人格なき社団として活動していた団体が法人格を取得する場合には、次のことに留意してください。
①NPO法人の「定款」の制定は、従来の権利能力なき社団の規約の改正ということになりますから、従来の規約改正の手続きにより「定款」を制定する必要があります。
②「定款」の施行は、当該NPO法人成立の時からであり、それまでは従来の規約が効力を有するという趣旨を、規約改正の議決の中で(あるいは、定款の附則の中で)明確にしておく必要があります。

                                 弁護士 浅 野  晋
Re: 法人成立前の理事会について 投稿者:ショーヘイ 投稿日:2006/02/27(Mon) 23:23:00 No.5706
浅野先生

わかりやすくご説明いただき、ありがとうございました。

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