- 理事会と委任状 - びわ 2006-05-09 13:53:00 No.5932
理事会と委任状 投稿者:
びわ 投稿日:2006/05/09(Tue) 13:53:00
No.5932
理事会での委任状が認められるかどうかについて
ご質問したく、よろしくお願いいたします。
内閣府のモデル定款を見ると、
29条に、総会に出席できない場合は、
書面表決または代理人への委任ができる とあり、
36条に、理事会に出席できない場合は、
書面表決ができる とあります。
当方の定款も同じ内容になっています。
これは、理事会では代理人への委任は認めないということなのでしょうか。
あるいは、理事会構成員の誰かであれば委任が可能なのでしょうか。
また、定足数には、どう影響してくるのでしょうか。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Re: 理事会と委任状 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2006/05/11(Thu) 19:18:00
No.5933
びわ さん
1、株式会社の取締役会の場合も同じような問題があります。すなわち、取締役が他の取締役に取締役会における議決権行使を委任できるかという問題です。
この場合、取締役は、その知識や経験などを生かしてその職責を果たすことを期待されて取締役に選任され、会議体である取締役会で他の取締役と互いに意見を闘わせて、よりよい結論に到達するようにする職責を有している ことから、取締役会での議決権行使を他に委任しこれを代理行使することは認められないとする考え方が一般的です。
2、このような考え方を敷衍すると、民法法人やNPO法人の場合も、理事が理事会での議決権行使を他に委任することはできないことになります。
しかし、株式会社の取締役会は法律で設置が義務づけられている機関であるのに対し、民法法人やNPO法人の場合、法律上「理事会」の定め自体が存在せず、理事会を設けるかどうか、またその構成や権限等について、当該団体が全く自由に定めることができます。
このように、民法法人やNPO法人の理事会における議決権行使の委任については、株式会社の取締役会とは法律上の基礎が異なりますので、別の考え方をすることができるように思われます。
3、このことに関し、マンションの管理組合法人の理事会に代理人を出席させことを認めた規約が有効か無効か争われた事件で、最高裁判所はこのような規約は有効であると判断しました。(最判平成2年11月26日:判例時報 1367号24頁)
この判決は、次のように述べています。
「一 建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)47条2頃の管理組合法人(以下「管理組合」という。)が、その規約によって、代表権のある理事の外に複数の理事を定め、理事会を設けた場合において、『理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。』と規定する規約の条項(以下「本件条項」という。)は、法49条7項の規定により管理組合の理事について準用される民法55条に違反するものではなく、他に本件条項を違法とすべき理由はないと解するのが相当である。
二 すなわち、法人の理事は法人の事務全般にわたり法人を代表(代理)するものであるが、すべての事務を自ら執行しなければならないとすると、それは必ずしも容易ではないとともに、他方、法人の代理を包括的に他人に委任することを許した場合には、当該理事を選任した法人と理事との信任関係を害することから、民法55条の規定は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されないときに限り、理事が法人の特定の行為の代理のみを他人に委任することを認めて、包括的な委任を禁止したものであって、複数の理事を定め、理事会を設けた場合の右理事会における出席及び議決権の行使について直接規定するものではない。したがって、理事会における出席及び議決権の行使の代理を許容する定款又は寄附行為が、同条の規定から直ちに違法となるものではない。
三 ところで、法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。
これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法52条1項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法52条2項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法49条4項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。
そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任関係を害するものということはできない。(以下略) 」
4、この判例の考え方をからすると、NPO法人の理事会についても、“理事会を設けた場合の理事の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である定款に委ねているものと解するのが相当”であり、“理事会における理事の出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定款で定めることも、可能というべきである。”ということになりそうです。
5、なお、代理出席を可とする場合、代理人の出席は本人の出席と同じことになりますから、定足数については、当然出席しているものとして算定されることになります。(但し、定足数の算定上は出席者として数えないという定款の定めもあり得ると思います。)
弁護士 浅野晋
Re: 理事会と委任状 投稿者:
シーズ・轟木 洋子 投稿日:2006/05/12(Fri) 10:15:00
No.5934
シーズの轟木です。
びわさん、ご投稿ありがとうございます。浅野さん、ご回答に感謝します。
私からも、追加質問させてください。
民法55条の規定があり、質問者の法人は定款で、「理事会に出席できない場合は、
書面表決ができる」と定めてある訳ですが、代理人への委任については、何も定めて
いないようです。この場合、この定款は、書面表決は認めているが、代理人への委任
は禁止している、ということになるのでしょうか。
また、定足数について、モデル定款では「・・・項の規定により書面表決した理事は、
理事会に出席したものとみなす」という条文をおいているようです。
質問者の定款が、もしこの条文を置いているのであれば、「書面表決」した理事は出
席したものとみなされますが、もし代理人を出すことが可能としても、その場合は出
席したものとみなされるか否か、そこも分かりにくいところです。
恐縮ですが、この点もご教授いただければ幸いです。
シーズ・轟木 洋子
Re: 理事会と委任状 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2006/05/14(Sun) 12:16:00
No.5935
轟木さん
そうそう、前回のお答えは質問に直接答えておりませんでした。判例を引用しているうちに疲れてしまったようで、す、すみません。昨夜「さくら水産」で元気をつけてきましたので、改めてお答えします。
1、民法55条は、理事の対外的な代表権を他に委任する場合の定めですが、理事会への出席やそこでの議事、議決権の行使といった事項は対内的なものであり対外的な代表権の行使ではありません。従って、民法55条は、理事会への代理人の出席や理事会での代理人の議決権行使について、何ら規制するものではありません。6299番の回答で引用した最高裁の判例も次のように述べています。
「民法55条の規定は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されないときに限り、理事が法人の特定の行為の代理のみを他人に委任することを認めて、包括的な委任を禁止したものであって、複数の理事を定め、理事会を設けた場合の右理事会における出席及び議決権の行使について直接規定するものではない。したがって、理事会における出席及び議決権の行使の代理を許容する定款又は寄附行為が、同条の規定から直ちに違法となるものではない。」(最高裁平成2年11月26日判決)
2、従って、理事会への代理人の出席、議決権行使の可否はその団体の定款の定め方によることになります。
そこで、定款で書面評決については定めがあるが、代理人の出席については定めがないとき、代理人の出席について許容する趣旨か否かが問題になるわけです。 この結論は定款の「解釈」によることになるわけですが、その結論は必ずしも判然としません。
3、このような場合の解釈は、積極、消極の両説があり得ます。しかし、法文の解釈上は、AとBとがあり得る場合に、Aだけを明文で許容し、Bについては何らの定めも置いていないときは、Bについては消極であると解するのが一般的な解釈の仕方であると思われます。
すなわち、この定款では、書面評決だけを定めており代理人の出席について定めがないとのことですので、代理人の理事会への出席、議決権の行使について定款は認めていないと解するのが一般的であると思われます。
4、書面評決と代理人が出席しての議決権行使との違いは、書面評決の場合はその議題についての当該理事の賛否の考えが議決に直接反映されるのに対し、代理人の場合は、代理人自身の考え方に基づき議決権が行使されるため、議題についての賛否が、委任した理事の考えと当該代理人と違う場合があり得ることです。
また、代理人は議決権の行使だけでなく、議事について討論し、それによって 他の理事の考え方に影響を及ぼすことができます。
そもそも、理事はその具体的知識、経験等を理事としての職務の遂行のため発揮することを期待されて理事に選任されているわけですから、理事会には自らが出席して意見を述べ議決権を行使することが当然の職務であり原則です。
従って、私としては、定款で明確に代理人の出席を認めている場合は例外として、そうでない場合には、代理人を理事会に出席させ議決権を行使させることは許されないと考えます。
弁護士 浅野晋
Re: 理事会と委任状 投稿者:
シーズ・轟木 洋子 投稿日:2006/05/15(Mon) 14:47:00
No.5936
浅野さん、
定款で代理人をたてることができる、と規定していないかぎりは、代理人は認められ
ないということですね。
「さくら水産」のパワーに感謝します。
シーズ・轟木 洋子
Re: 理事会と委任状 投稿者:
びわ 投稿日:2006/05/15(Mon) 17:55:00
No.5937
浅野様、轟木様
詳しい解説および、質問を整理していただきまして
ありがとうございました。
表決数や議事録の出席人数にも関わってきますので
大変参考になりました。
ありがとうございました。