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NPO法と定款の優劣関係について 投稿者:山田一郎 投稿日:2006/09/27(Wed) 18:56:00 No.6378
こんにちは。何度かお世話になっております。
今回は、NPO法と定款との優劣の関係についてご質問させていただきます。

①運営業務に関する議決について
NPO法が準用する民法63条では「特定非営利活動法人の業務は、定款で理事
その他の役員に委任したものを除き、すべて社員総会の決議によって行う。」と
なっています。
この「業務」の中には、「役員の選任」が含まれると考えられますが、この「役員
の選任」を役員によって構成されていない「評議員会」などで行うとする定款の規
定は法に反しているように思われるのですが有効でしょうか。

②社員総会の招集について
NPO法が準用する民法61条では「理事は、必要があると認めるときは、いつで
も臨時総会を招集することができる。」また、NPO法18条4号では監事は「前号の
報告をするために必要がある場合には、社員総会を招集すること。」と規定されていま
す。
これは、理事と監事の単独での社員総会招集権を規定しているものですが、定款によっ
て、理事会や監事会が招集することができるとし、理事・監事それぞれ単独での招集権
を制限することは可能でしょうか?

以上、2点につき検討の上、ご回答をよろしくお願いします。
Re: NPO法と定款の優劣関係について 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2006/09/27(Wed) 20:42:00 No.6379
山田一郎 さん

1、正しくは「業務」ではなく「事務」です。

2、この「事務」の中に役員の選任も含まれると解されますので、民法63条の文言からすると、受任者は「理事その他の役員」に限られます。評議委員会がこの「その他の役員」に含まれないと解すれば山田さんのおっしゃるとおりですが、判例を調べると、
 「社団法人の社員総会は社団法人における最高の意思決定機関で、法人の組織、管理等に関するあらゆる事項について決議しうるのを原則とするけれども、その専権に属する事項例えば定款の変更、解散の決議等を除いては、定款の定めによってこれを他の機関に委任することを妨げるものではなく、評議員会に委任した事項については評議員会のみがその事務を行うことができる。」
という趣旨の判例があります。(東京地方裁判所昭和34年12月4日判決:下民集10-12-2557、東京地方裁判所昭和32年11月15日判決:下民集8-11-2123)
 これらの判例は、民法63条の「その他の役員」という文言を「その他の機関」というように広く解釈している訳です。
 従って、この判例の考え方に従えば、評議員会を役員の選任機関とする定款の定めは有効であるということになります。
 私も、この判例の考え方に賛成です。

3、社員総会の招集についてですが、「理事会」は合議機関・決定機関であって執行行為をすることはできません。社員総会の「招集」というのは執行行為ですから、これを「理事会」が行うことはできません。
  なお、NPO法第30条が準用する民法61条1項は、理事一人一人の総会招集権を認めているようですが、総会の招集はNPO法人の「業務」ですから、定款に定めがない限りは「理事の過半数をもって決する」必要があります。そして、「理事の過半数」を持って決したときは、どの理事であっても総会の招集という執行行為をすることができると解することができます。
 また、総会の招集というのは「特定非営利活動法人の業務」の一つですから、NPO法第17条に基づき定款に定めることにより、理事一人一人の招集権を制限し、例えば総会の招集権者を代表理事に限ることも可能です。

4、次に「監事会」ですが、監事は独任制の機関であり、監事一人一人が独立してNPO法第18条の権限を有していますから、監事単独での総会招集権を否定することは出来ません。このことは、監事については、NPO法第17条に相当する条項がないことからも裏付けることができます。

                     弁護士 浅野晋
Re: NPO法と定款の優劣関係について 投稿者:山田一郎 投稿日:2006/09/28(Thu) 10:31:00 No.6380
ありがとうございました。

ちなみに、今回の改正で、「事務」という文言が「業務」へと
変更されていますが(改正法14条の5)、変更することによって
具体的にどのような点が変わってくるのでしょうか?また、今回
なぜこのような変更がなされたのでしょうか?
わかる範囲で教えていただけないでしょうか。

よろしくお願いいたします。
Re: NPO法と定款の優劣関係について 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2006/10/15(Sun) 23:35:00 No.6381
山田一郎 さん

この件は、シーズの松原さんに調べてもらいました。以下の通りということです。


さて、ご質問は、今回の民法改正で特定非営利活動法(NPO法)が改正されることになった点に関して以下のようなことですね。

民法63条で、「社団法人の事務は、定款で理事その他の役員に委任したものを除き、そべて総会の決議によって行う」とされているが、この準用部分を、そのままNPO法に移したはずの改正法第14条の五では、「特定非営利活動法人の業務は、定款で理事その他の役員に委任したものを除き、すべて社員総会の
決議によって行う。」となっていて、「事務」が「業務」になぜか変わっている。
どうしてか?

これは、NPO法では、16条で、法制定当時から、「理事は、すべての特定非営利活動法人の業務について、特定非営利活動法人を代表する。」とされており、これに対応する民法の文言は、第53条「理事は、法人のすべての事務について、法人を代表する」となっています。
つまり、NPO法は、民法とは違い、元から「業務」を使っていた経緯があり、今回の改正でもNPO法の文脈(法文)に揃えたものです。
運用上は、「事務」も「業務」も基本的には同じ意味として扱われています。
NPO法第16条の解釈は、NPO法コンメンタール(日本評論社)でも、民法53条の解釈をベースに解説されており、「事務」が「業務」に変わったこと
で、なんらかの変化があるとはされていません。
内閣府が改正法文を説明した時も、運用上、この点に関して変わることがあるという話はありませんでした。
今回の改正は、電磁的方法による社員総会の表決権行使以外は、内容に関する改正はないというのが説明だったので、文言を揃えただけと解するのがよいと思
います。

 以上です。

                               弁護士 浅野晋

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