損害賠償請求に関する質問 投稿者:
TOSI 投稿日:2006/12/01(Fri) 00:30:45
No.6525
移送サービスを行っているボランティア団体です。法人格は取得
していません。当然道路運送法の許可や登録は受けていません。
移送に使用する車両は運転者の個人の自家用車です。
質問は、移送サービスの利用者に対して、「移送中交通事故を起こし、
利用者が身体的及び物的損害を被ったとしても、
私(利用者)は、自動車保険で補償される範囲を超えて損害賠償の
請求はしません」という誓約書を提出して貰うことを考えています。
このような誓約(契約)は有効でしょうか?利用者(被害者)の
損害賠償請求権を制限できるのでしょうか?
よろしくお願いします。
Re: 損害賠償請求に関する質問 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2006/12/04(Mon) 20:07:39
No.6532
TOSI さん
これはけっこう難しい問題です。
事後的に損害賠償請求権を放棄することは原則として自由と解されます。しかし、事前に損害賠償請求権を放棄する契約については、損害賠償制度の趣旨目的や公序良俗、公平の原則等に照らして、無効とされる場合があります。
東京地方裁判所昭和49年7月16日判決(判例時報759号66頁)は、いわゆる好意同乗(運転者の好意で車に乗せてもらった場合のことをいいます)の場合に、運転者が「事故になっても責任は持てないよ」と言ったのに対し、同乗者が「いいよ」と返事したことが損害賠償権を放棄したといえるかどうかについて、次のように述べて免責を認めませんでした。
「ところで人身損害に伴う損害賠償請求権の事前の放棄ないし事 前の免責の特約も一般的に全て無効であると解すべき理由も見 出し難い。しかしながら自動車の同上に伴う右のごとき意思表 示は抽象的概括的に行われるのが通常であるから、その法的効 果を論ずるに当たっては、公序良俗の観念ないし損害賠償制度 を指導する公平の原則に照らし、同乗の目的態様、運転者と同 乗者の人的関係、運転者の過失の態様程度、同乗者の同乗中の 挙動、被害法益の種類と程度等を総合的に勘案し、当事者間の 概括的抽象的意思表示の真意を探求し、もって右の意思表示に よる免責を認める場合を合理的に限定して解釈するのが相当で ある。」
「……そうすると、、前判示『責任は持てないよ」『いいよ』と の原告と被告坂本との会話が、一般的には、被告坂本の主張す るように、損害賠償請求権の事前放棄または事前免責の特約で あったとしても、本件においては被告坂本は免責されると解す るに由ないものである。」
書面による契約によって損害賠償請求権の事前放棄をする場合も、上述した判例の考え方によると免責されない場合も出てくるかもしれません。
ただご質問の案件は、保険でカバーされる部分を越える部分についての免責のことですから、仮に保険の責任限度額が無制限であり、保険によって全損害の補填がなされたといえる場合は、もはや責任自体が無いということになり問題自体が生じません。
このように考えると、
①損害賠償請求権の事前放棄の契約は、無効と判断される 場合もあるが、契約があれば契約が有効であると主張す ることが出来るので、そのような契約がないよりは危機 管理上は安全である
②しかし、危機管理上は、損害を完全に補填できるだけの 保険に加入しておくきである
ということになろうかと思います。
弁護士 浅野晋
Re: 損害賠償請求に関する質問 投稿者:
TOSI 投稿日:2006/12/05(Tue) 13:55:29
No.6536
浅野先生 回答有り難うございます。
個人が無償のボランティアで移送サービスを行う場合は例に出された好意同乗の判例のような考え方になるのでしょうが、
団体が実費程度の対価を得て移送サービスを行う場合は、事前の損害賠償を制限する誓約が、消費者契約法第8条1項4号
「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用
する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除
する条項」に該当し、無効とされる可能性が有るように思われますが如何でしょうか。
内閣府のサイトでの同法の逐条解説では、「事業」の定義として
「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行であるが営利の要素は必要でなく、営利の目的をもってなされるか
どうかを問わない。また公益・非公益を問わず反復継続して行われる同種の行為が含まれ・・・」とありますので非営利の
ボランティア団体も同法では事業者とみなされるのでしょうか。
Re: 損害賠償請求に関する質問 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2006/12/17(Sun) 23:33:47
No.6557
TOSI さん
消費者契約法についての考察を忘れていました。すみません。
消費者契約法第2条は、消費者とは個人をいうと定義し、また事業者とは法人その他の団体……をいうと定義していますから、NPO法人も事業者に該当します。当該事業が営利であるか、非営利であるかを問いません。
また、同法第8条1項は、
①事業者の債務不履行・不法行為により消費者に生じた損害
の全部を免除する条項
②事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な
過失により消費者に生じた損害の一部を免除する条項
は無効とすると定めています。
従って、ご質問の案件では、軽過失の場合に、損害の一部を免除する契約のみが有効ということになります。
弁護士浅野晋
Re: 損害賠償請求に関する質問 投稿者:
TOSI 投稿日:2006/12/18(Mon) 21:12:17
No.6561
浅野先生 詳細な回答有り難うございました。