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短期借入金の議決について 投稿者:NPO1年生 投稿日:2008/01/23(Wed) 11:23:57 No.7483
NPO法人の認証の担当をしている者です。
いつも悩むことがあると、すぐに質問箱を検索し、勉強させていただいています。
今日は、本当に基本的なことですが、気になってしまい、お知恵をお借りしたいと思って、質問させていただきます。

本県のひな型では、「借入金(その事業年度内の収入をもって償還する短期借入金を除く。・・・)その他新たな義務の負担及び権利の放棄」は総会の議決事項としています。
つまり、長期借入金は総会の議決が必要だが、短期借入金については必要ないということですが、一方、短期借入金について、議決が必要である旨の規定を設けていないように思います。
この場合、短期借入金は理事会の権能である「その他総会の議決を要しない会務の執行に関する事項」に該当するのでしょうか。

自分の県のひな型なのに、理解できておらず、本当にお恥ずかしい限りですが、解釈について教えていただきますようお願いします。

(参考)本県のひな型における総会と理事会の権能
1 総会の権能
(1)定款の変更(2)解散(3)合併(4)事業計画及び収支予算並びにその変更(5)事業報告及び収支決算(6)役員の選任又は解任、職務及び報酬(7)入会金及び会費の額(8)借入金(その事業年度内の収入をもって償還する短期借入金を除く。・・・)その他新たな義務の負担及び権利の放棄(9)事務局の組織及び運営(10)その他運営に関する重要事項
2 理事会の権能
(1)総会に付議すべき事項(2)総会の議決した事項の執行に関する事項(3)その他総会の議決を要しない会務の執行に関する事項
Re: 短期借入金の議決について 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2008/01/23(Wed) 16:10:17 No.7484
NPO1年生 さん

NPO1年生 さん

1、なかなか良い問題点にお気づきになりました。実はこの問題は、業務の「決定」と業務の「執行」という文言について、その範囲をどのように考えるのかという問題であり、結構重要な問題です。

2、各所轄庁のモデル定款をみると、NPO1年生さんの県の雛形と同様の記載例となっているものが多いように思います。このようなモデル定款は、社団法人において一般に用いられている定款を、深く考えることなくそのままNPO法人に当てはめてしまったもので、実際のNPO法人の運営に基づいていないため、いろいろな不都合が出てまいります。ご質問の件も、実はそのひとつです。
 
3、法人の業務は、
  1.業務の決定 その業務をするのかしないのか、するとしてどのようにするのかについての決定
  2.業務執行  決定された業務を執行する
 という2段階に分かれます。

4、「本県のひな型」では、総会に業務の決定をする権限を与えていますが、理事会は原則として総会が決定した業務の執行について決定する機関と位置づけられています(但し、総会への付議事項をどうするかの決定は例外。)
これは、官庁のように年度の予算がすべての業務について細部にいたるまで編成 される団体の場合は、編成された予算を理事が執行するだけですから、理事会では その執行行為についての決定をするだけですみますので、「本県のひな型」のよう な業務権限の配分で差し支えは生じません。
この場合、予算に、短期借入金による収入と、この返済による支出を記載します。
そうすると、この予算に短期借入金のことが記載され、これが総会の議決を減るわけですから、理事会では短期借入をするかどうかについての業務決定をする必要はなく、その短期借入れを、いつ、どこから、どのような条件で行うかという具体的な業務執行について決定するだけでよいことになるわけです。

5、しかし、ほとんどのNPO法人の場合、予算は作るものの、概要がわかるだけの簡 単なものしか作りません。短期借入金についても記載されないことがほとんどでし ょう。
  このように、予算に短期借入金についての記載がないのに、年度途中で短期借入れをしなければならないこととなったとき、理事会がこれを決定することができ るかがご質問の命題です。
  しかし、「本県のひな型」の理事会の権限を厳密に解釈すると、この定め方では理事会には業務決定権がありませんので、理事会が短期借入れをすることはできないことになります。

6、すなわち、「本県のひな型」のような権限の配分の定め方は、妥当ではありませ ん。この権限の配分は、いわゆる「総会重視型」の考え方ですが、それにしても、 この(3)を次のようにする必要があります。
「(3)その他総会の議決を要しない会務の決定および執行に関する事項」

7、ただ、「業務の決定」とか「業務の執行」といっても、その範囲は明確ではあり ません。そこで、無理やり「短期借入は、業務を遂行する上で必要であるから、そ れをするしないの決定は業務執行の範囲に入る。」と解釈して、「その他総会の議 決を要しない会務の執行に関する事項」であると考えて現実的な妥当を図るという のも一案です。
しかし、そのような無理をするより、はじめから定款の文言を無理が生じないよ うにしておいたほうがよいと思います。

8、なお、「本件のひな型」には、もうひとつ困った点があります。それは、「その 他新たな義務の負担及び権利の放棄」を総会の議決事項としている点です。
そうすると、当該団体が他と何かの契約をする場合(例えば、コピー機のリース契約、雇用契約、売買契約)、ほとんどの契約は「義務の負担」を発生させますから、これら契約について予算に予め記載されていない場合には、すべて臨時総会を開いて議決を経なければならないことになります。(あるいは、特定事項について権限の委任をするという方法もありますが。)
したがって、このような権限の配分は、根本から考え直す必要があるように思います。

                弁護士 浅野晋
                
Re: 短期借入金の議決について 投稿者:NPO1年生 投稿日:2008/02/06(Wed) 11:16:28 No.7509
浅野先生、ご多忙のところ、丁寧な解説をいただき、大変ありがとうございました。
じっくり読ませていただき、本県のひな形にNPO法人の実態にそぐわない箇所がいくつもあるのだということを認識することができました。
少しずつでも実態に合わせていくことが必要だという思いに至っています。
これからも、解説本では記載されない細かなこと、そして、本からは知ることのできないNPO法人を運営していくうえでの問題など、勉強させていただきたいと思います。
どうぞご指導をよろしくお願いします。

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