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団体のみが正会員というNPO法人はありえるのでしょうか。 投稿者:NPO2年生 投稿日:2008/05/15(Thu) 13:31:06 No.7730
いつも「NPOWEB」にはお世話になっております。
早速ですが、とても困っている案件があり、教えていただきたいと思い、投稿しました。
今、認証申請の相談を受けている団体で、正会員をある組合に限定しているものがあります。
基本的には、個人を排除する規定は認められないのでは、という見解でお話をしていますが、賛助会員や準会員として個人が加入する道もあるし、もし、正会員に個人を認めたとして、その組合に所属する個人の方が複数、正会員として加入し、総会で組合の意思と異なる表決をする危険性もある、それでも個人を入れなければならないのか、と団体の方から言われています。
ボランティア活動をする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進するというNPO法の趣旨からすると、個人を排除することはできないのではないかということをお伝えしているのですが、理解していただけません。
こちらの考え方は間違っているのでしょうか。
教えていただけると大変助かります。よろしくお願いします。
Re: 団体のみが正会員というNPO法人はありえるのでしょうか。 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2008/05/19(Mon) 17:44:39 No.7740
NPO2年生 さん

1、可否両論あると思いますが、正会員(つまり、NPO法上の社員)を法人に限定することは可能と考えます。(ご質問では「組合」とありましたが、「法人」との趣旨であると理解してお答えします。)

2、NPO法人は、NPO法第2条第2項第1号イに基づき「社員の資格の得喪に関し、不当な条件を付さないこと。」が要件となっています。この定めは、逆に言えば、不当な条件でなければ、社員の資格の得喪について何らかの条件を定めても良いことを示しています。

3、例えば、「嫌煙権・反たばこ団体」が、社員の資格として例えば「たばこ産業の従事者でないこと」という条件を設けたとしても、これは何ら「不当な条件」ではありません。

4、ただ、「不当な条件」か否かというのは、多分に主観的な判断となる可能性がありますので、どのような考え方に基づいて判断するかを考えておく必要があります。

5、これに関しては、そもそも「法人」という社会制度がどのようなものか、その制度趣旨にまで遡って考えなければなりません。
 「法人」というのは、法律により、権利義務の法的な主体となる地位(法人格)を認められた団体をいいます。そしてこの法人制度は、社会の進歩に従い、個人だけでなく様々な団体が社会に存在して、団体として社会的活動をしているという実体に基づいています。
 そして法律は、社会に存在する様々な団体のうち、一定のものに対し「法人格」という地位・資格を与えて、その団体が「法人」として権利義務の主体となることを認めています。株式会社も社団法人もこのような「法人」の一種です。
 (このような法人制度については、民法総則の解説書に説明がありますので、詳しくは民法の本をご覧下さい。)

6、ところが、NPO法ができる前の日本の法人制度には、著しい不備がありました。お金儲けをするために会社という法人を作るときには、一定の要件のもとに誰でも自由に株式会社を設立することができましたが、金儲けではなく世のため人のための活動をするために法人を作ろうとしても、ほとんど不可能だったのです。
 これは、民法34条が、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」と定めていたためです。この「許可」という法律用語は、「一般的な禁止を特定の場合に解除すること。」を言います。
 すなわち、日本の法律制度は、金儲けをするために法人を作ろうとする人には、簡単に「株式会社」という法人を設立することを認めていたのに、営利を目的とせず、世のため人のために活動しようとする公益団体については、主務官庁の「許可」がなければ法人を設立することができないという、極めておかしな状態でした。

7、このような民法の考え方の背景には、「法人格」というのは、国家が恩恵的に付与する特別の資格であるとの思想があります。
しかし、団体が「法人」として社会的な活動をしても、誰に迷惑をかけるわけでもありません。「法人」という制度は、人々が団体を作って活動しやすくするための社会的な「道具」にすぎません。
 恩着せがましく設立を「許可」された極めて少数の団体しか「法人」として活動できないというより、意欲を持った人々ができるだけ自由に法人を設立できるようにして、多種多様の法人が様々な社会的活動を担うということの方が、社会にとって遙かに有益であることは明らかです。

8、このことに気がついた人々が、新しい法人制度を作る運動を始め、それが阪神淡路大震災の際のボランティアの活躍という背景の中で社会に認知されて、ついにできたのが「特定非営利活動促進法」というわけです。
 従って、この法律の条文は、このような文脈の中で解釈し理解する必要があります。

9、先に述べたように、「法人」というのは、団体が社会的活動をしやすくするための「道具」(社会制度)です。従って、法人を作って社会的活動をしたいという人々には、特に支障がない限り、法人格を付与するというのが、法の意図するところです。

10、従って、「不当な条件」というのも、それが公序良俗に反するような場合はともかくとして、社員(正会員)の範囲を一定の資格あるものに限る方が当該団体の運営にとっては良いと当該団体が考えて、その旨定款に記載するのであれば、それは「不当な条件」とはいえないと解されます。

11、ご質問の、正会員を法人に限るという定款も、上述した文脈で考えるときは、少しも「不当な条件」ではありません。もちろん、必ずしも正会員を法人に限らなくても運営できるとは思われますが、当該団体が正会員を法人に限ることが自分たちの団体の運営にとって必要であると考えているのに、第三者が「それではだめだ」というのは、「特定非営利活動の健全な発展を促進」するという、特定非営利活動促進法1条の趣旨に悖るようにに考えます。
すなわち、社員の資格をどのようにするかは、当該団体の私的自治に委ねておけば良い問題であり、所轄庁があれこれ考えて規制するような問題ではないように思います。

12、このように考えても、特定非営利活動促進法によって誰でも簡単にNPO法人を作って活動することができますから、少しも「市民が行う自由な社会貢献活動」を制限することにはなりません。
団体にはそれぞれの事情や運営の仕方があります。その多様性は私的自治に委ねて、それぞれの団体が運営し易くすることこそが、法の趣旨に合致いたします。

13、なお、「何でも質問箱」の、2007年1月16日の回答をご覧下さい。この回答では、社員を個人に限定しているNPO法人の定款例が記載されています。
 すなわち、社員を個人に限定した定款でも、NPO法人の設立認証がなされているわけで、実務上も参考になると思われます。

                    弁護士 浅野晋
Re: 団体のみが正会員というNPO法人はありえるのでしょうか。 投稿者:NPO2年生 投稿日:2008/05/19(Mon) 23:33:55 No.7747
浅野先生、お忙しいところ、ありがとうございました。
たくさんのコメントを記載していただいているので、じっくり読ませていただきたいと思います。
このサイトの質問箱を拝見させていただく中で、所轄庁が規制しすぎているというか、認証に関していろいろと細かい指導をしているという内容をよく目にします。私も極力、法の趣旨を尊重し、規制しない方向でと考えているのですが、なかなか難しいですね。
NPO2年生、まだまだ勉強中です。今後ともご指導をよろしくお願いします。
Re: 団体のみが正会員というNPO法人はありえるのでしょうか。 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2008/05/21(Wed) 12:06:34 No.7754
NPO2年生 さん

 その後、この件について2人の方に意見を聞いてみました。参考にして下さい。

1、シーズの松原明さんの意見

・社員の資格を団体(法人、任意団体)に限ってNPO法人の認証を受けている団体がある。ジャニックという国際支援の団体であるが、そこは、「国際協力活動の支援とPR、連絡調整にあたるNGOネットワーク」の団体である。
(ジャニックのホームページは、「NPO ジャニック」で検索すると出てきます。)
 
・すなわち、ジャニックの場合、社員の資格を団体に限定する合理的的な理由があるケースである。

・何でも質問箱のケースは、このような合理的な理由があるのだろうか。

・社員を法人に限る合理的な理由がないと、「不当な条件」となる可能性があるのではないか。

2、NPO法案作成に関係した某氏の意見
 (この方は、NPO法の法案作成作業に関係された方で、NPO法に大変詳しい方です。)

・立法当時は、民法の社団法人との「棲み分け」をどのように考えるかとの問題もあり、特定非営利活動法人には市民の誰でもが自由に参加できる「人々に開かれた団体」という性格を持たせるため、「社員の資格の得喪に関して、不当な条件を付さないこと。」という条項をもうけた。

・社員の資格について何らかの制限をする場合、その制限をするについて何か合理的な理由が必要であるというのが立法当時に想定していた原則であるが、法律施行後10年の実績を経て、この条項の解釈が緩やかとなり、この条項がいわば形骸化して来ているようにも思える。

・この条項を緩やかに考え、社員の資格の制限について当該団体がそのようにする事が必要であると考えるときは、それが社会常識から考えてあまりに不当である場合を除いて、当該団体の考えを尊重するという考え方も、現時点では解釈の範囲内であると思う。

                  弁護士 浅野晋
Re: 団体のみが正会員というNPO法人はありえるのでしょうか。 投稿者:NPO2年生 投稿日:2008/06/06(Fri) 12:12:06 No.7826
浅野先生、そして、ご意見をいただいた2名のNPO界の先輩方に、感謝申し上げます。
お忙しいところ、親身にご意見いただきまして、ありがとうございました。
ご意見を踏まえ、検討した結果、正会員を団体に限定する理由が正当なものとは考えられないということで、提出者に再考をお願いすることとなりました。
本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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