監事満期辞任後の職務について 投稿者:
なんだ 投稿日:2009/04/01(Wed) 11:18:52
No.8405
監事が任期満了(3月末)とともに、法人からの退会と、同時に辞任を申し出ています。
退会・辞任を認めて、時期的に新監事選出を次期総会(5月)にて行うつもりですが、前事業年度の監査をしてもらわなければなりません。
「辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」規定が定款にありますが、退会・辞任した監事がこの監査を拒否した場合には、法人側としては法律的には具体的にどのような請求を行うべきでしょうか?
また、この退会・辞任を申し出ている監事が適正な監査をしない場合(例えば適正意見の署名・押印をしないなど)は法人側としてはどのような対応をすればよろしいでしょうか?
よろしくご指導お願いします。
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2009/04/02(Thu) 17:36:44
No.8411
なんだ さん
退会・辞任した監事がこの監査を拒否した場合には、その任務を怠った訳ですから、それにより損害が生じたときは損害賠償請求ができますが、具体的にどのような金銭的損害が生じたのか、その算出は難しい場合が多いと思われます。
次に、この監事が「例えば適正意見の署名・押印をしないなど」の場合にどうすべきかですが、それはそれでそのまま総会に報告すると共に、これに対する理事会(理事長)の見解を説明し、これについての総会の判断を仰げばよいと考えます。
また、新任の監事に、問題の年度についての監査をしてもらうことは差し支えありませんので、理事会または総会の決議で、新任の監事に監査してもらうというのも一つの方法です。
弁護士 浅野晋
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
なんだ 投稿日:2009/04/02(Thu) 19:36:39
No.8412
浅野様
早速のご回答有難うございます。
大変役に立ちました。
今ひとつ別件でお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?
法人設立から中枢メンバーとして活動していた会員が突然退会・辞任する場合、在籍中のその会員の発言や意思決定について、退会後も責任を追求できる場合がありますでしょうか?
法人の主たる事務所の登記がその会員の住所で登記されており、身勝手な退会で突然登記の移転を求めてきた場合などです。
法人としてはいずれは登記を移転するつもりですが、広告・宣伝物・発行物の変更や各種媒体への連絡・変更には相当な事務量(損害)が発生することが見込まれますし、直ちにというのには難しい諸事情があります。
少なくとも、新事務所に移転するまでの間、その退会・辞任した会員の在籍中の責任を追及し、主たる事務所としての継続登記と連絡業務くらいはさせたいのですが、どうでしょうか?
また、もし上記請求が出来ない場合、法人としてはどのような対応をすべきでしょうか?
よろしくご教示の程お願いします。
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2009/04/04(Sat) 14:08:13
No.8416
なんだ さん
NPO法人の役員と当該NPO法人との関係は、民法の委任の規定に従います。
そして、民法651条は次のように定めています。
第651条(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
監事が任期到来前に勝手な理由で辞任したために、そうでなければ生じなかった諸費用を「損害」として請求する事は、一応は可能です。
ただ、「やむを得ない事由」があったかどうかとか、それが法的な因果関係がある損害といえるのか、といったことで争いになる可能性があります。
そうすると、NPO法人の人的資源が、そのような無責任な人事を構えることで消費されてしまうということも考える必要があるかもしれません。
なお、事務所を「賃借」していたとしたら、貸し主である監事が監事職を辞任し、退会したとしても賃貸借が解約されるわけではありませんから、そのまま事務所を借り続けることができます。
使用貸借(ただで借りている)場合は、賃貸借より権利が弱いため一概にはいえないのですが、一般的には新事務所が見つかるまでの間、そのまま事務所として使用させてほしいと主張することは、不当な主張とは思われません。
なお、「連絡業務」というのは監事の職務ではありませんが、例えば郵便物の転送とかをするように求めることも、ご質問のような事情が背景にあるのであれば、納得できる主張と思われます。
弁護士 浅野晋
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
なんだ 投稿日:2009/04/13(Mon) 15:47:33
No.8440
有難うございます。大変参考になりました。
最後に詰めの段階のお話としてお伺いしたいと思います。
「連絡業務」を退会辞任した相手方に求め、相手方がこれらを拒否した場合には、どのような法的措置が出来ますでしょうか?
相手方には、法人の会員がかなり不快感を示しており、法人としては新事務所への移転を模索しつも、当面は退任辞任した相手方に対し毅然とした対応をとるべきだと考えています。
たびたび申し訳ございませんが、宜しくご教示お願いします。
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2009/04/17(Fri) 10:58:09
No.8457
なんだ さん
「……退会辞任した相手方が、これらを拒否した場合には、どのような法的措置や要求が出来ますでしょうか?」
↓
この事務所の使用形態が賃貸借なのか使用貸借なのかが分かりませんが、御質問の趣旨から考えて、どうも使用貸借(ただで借りている)ものと思われますので、それを前提にお答えします。
使用貸借の場合、借りた物の返還時期については民法597条に定めがあります。
(借用物の返還の時期)
第五百九十七条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
本件の場合は、おそらく597条2項の仁基づき、「未だ目的に従った使用、収益が終わっていない。」との主張が可能かと思われます。
次に「連絡業務程度」をすることを拒否された場合ですが、これを強制する法的根拠がありませんから、これについては法的措置をとることはできないと思われます。
弁護士 浅野晋
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
なんだ 投稿日:2009/04/17(Fri) 13:01:51
No.8461
浅野様
重ね重ねありがとうございます。
使用貸借ですが、大変参考になりました。
説明が足らず申し訳ございませんでした。
主たる事務所からの連絡・転送業務は、かねてから監事の他に事務所に居住する幹部会員の業務としても任せておりました(つまり監事・幹部双方に責任追及できる状態です)。
連絡業務の法的強制は出来ないが、退会辞任後も連絡業務を要求すること自体は不当ではないと解釈してよろしいのですね。
当法人としては、幹部は定款上の役員ではありませんが、平会員と異なり、法人内では役員扱い、役員に準じ運営に参画する権限を持たせた幹部です。
そこで幹部に対する直接の規定ではありませんが、役員への「辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」規定の趣旨を及ぼし、連絡業務を要求し、もし拒否して必要な連絡が滞った等により法人が損害を受けた場合には、賠償請求したいと考えていますが、この考えでよろしいでしょうか?
度重ねの質問、申し訳ございませんが宜しくご教示の程お願いします。
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2009/04/17(Fri) 19:00:16
No.8464
なんだ さん
「連絡業務の法的強制は出来ないが、退会辞任後も連絡業務を要求すること自体は不当ではないと解釈してよろしいのですね。」
↓
その通りです。但し、この連絡業務について監事が委任されていたと考えると、次のように民法651条2項が手がかりとなります。
「そこで幹部に対する直接の規定ではありませんが、役員への「辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」規定の趣旨を及ぼし、連絡業務を要求し、もし拒否して必要な連絡が滞った等により法人が損害を受けた場合には、賠償請求したいと考えていますが、この考えでよろしいでしょうか?」
↓
「幹部」は定款上の「役員」ではありませんので、役員についての「辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」との規定を根拠に損害賠償請求をすることは出来ません。
しかし、この幹部は、従来は当該団体の委任(法的には「準委任」ですが、実質的な違いはありません)を受けてこのような事務処理をしていたと考えることが出来ます。そうすると、次の民法651条2項が手がかりとなりそうです。
(委任の解除)
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
つまり、①「委任(準委任)」契約(契約書はないけれど、黙示の合意があったと理解する。)に基づき、監事・幹部は受任者として連絡業務をする義務がある。②その委任契約を解除することはできるが、その場合民法651条2項により損害賠償義務が発生する……と理解する訳です。
このように、法律上の組み立ては一応はできそうです。
ただ現実の問題としては、賠償請求といってもなかなか大変な労力が必要ですし、連絡業務をやらせるといっても誠実にしてくれるのかどうかという問題もあります。
弁護士 浅野晋
Re: 監事満期辞任後の職務について 投稿者:
なんだ 投稿日:2009/04/17(Fri) 21:41:59
No.8466
浅野様
何度も何度も大変有難うございます。
疑問がはれ、不安が払拭されました!
勿論賠償請求が目的ではないですので、先生からご教示していただいたことを胸に、法人にとって一番よい方法を模索していきたいと思います。
本当に本当に有難うございました。