Re: 理事の登記 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2009/09/10(Thu) 17:06:58
No.8818
twotom さん
1、まず登記の点ですが、理事として再任されないのに「理事として登記」することはできません。
2、次に、定款に「任期満了でも、後任が就任するまではその職務を行わなければならない」との定めがある場合に、任期満了によって退任した理事が従来通りその職務を行うことができるかどうかは問題です。
3、まず、「役員は、辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」との趣旨の定めは、特定非営利活動促進法にも民法にもありません。
ただ、「任期満了」後の場合には、特定非営利活動促進法24条2項に定めがあり、「定款で役員を社員総会で選任することとしている特定非営利活動法人」について、その任期を「定款により、後任の役員が選任されていない場合に限り、……定款で定められた任期の末日後最初の社員総会が終結するまで」任期を伸長することができるということになっています。
4、しかしこれは、その旨をきちんと定款で定めた場合にのみ任期の伸長が認められるものであって、単に定款で「辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」と定めてもその通りに認められるというものではありません。
5、そもそも役員と団体の関係は委任関係ですから、役員はその委任関係をいつでも解除(つまり辞任)することができます。(民法651条1項)
6、役員が辞任の意思表示をした場合、すぐにその効果が発生しますから(つまり役 員ではなくなりますから)、役員でもないのに「後任者が就任するまでは、その職 務を行わなければならない」とするのは、明らかに異例のことです。
7、これは恐らく、民法654条の、「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者……は、委任者……が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。」と定めの場合を想定していると思われます。
すなわち、辞任しまたは任期満了して役員の地位を喪失した元役員がその職務を行わなければならないのは、民法654条にいう「急迫の事情がある場合」に限ると解することができます。
8、従って、多数の役員がいて、そのうち1人が辞任したり任期満了によって退任しても特段の「急迫の事情」は生じない場合、当該の退任した役員が従来通り役員の職務を行う必要はありませんし、また既に役員ではないのですから役員の職務を行うこともできないということになります。
9、辞任により法が定める役員の最低数に満たないこととなる場合は、「急迫の事情がある」場合が多いとは考えられますが、それだけですぐに「急迫の事情がある」とは言えないようにも思います。
10、なお、次のような裁判例があります。これは、財団法人の寄付行為では理事の定員が10人以上20人以下となっているのに、10人いた理事の内6人が辞任して理事数が4人となってしまったという場合に、理事会で何かの決議をするために、旧民法56条に基づきこの欠員の6人分の「仮理事」の選任を求めたという事案です。(東京地方裁判所昭和34年5月20日判決(判例タイムス90号58頁、判例時報188号26頁)
このような請求について裁判所は、(1)定員を欠いているから、辞任した理事もなお理事としての権利義務を有しており、この辞任した理事を含めて理事会を開催できること、(2)新たな理事を選任して定員不足を解消することもできること、を理由に申請を却下しました。
弁護士 浅野晋