- 理事長の解任 - がすこいん 2010-04-15 18:03:30 No.9206
理事長の解任 投稿者:
がすこいん 投稿日:2010/04/15(Thu) 18:03:30
No.9206
現在の理事長を解任しようと思うのですが、定款には、「理事長は、理事の互選により定める。」の規定があるのみで、解任に関する規定はありません。
この場合、理事会で理事の過半数の決定により解任することは可能でしょうか。
解任できるとして、解任される理事長に議決権はあるのでしょうか。定款には、理事会の決議について特別利害関係を有する理事の議決権を排除する規定はありません。
また、「過半数」というのは、出席理事の過半数のことをいうのでしょうか。それとも総理事の過半数のことをいうのでしょうか。
現在理事総数5名、そのうち解任に賛成の理事2名、反対の理事(理事長も含めて)2名、欠席予定1名です。この状況で解任できるのでしょうか。
Re: 理事長の解任 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2010/04/18(Sun) 19:44:19
No.9212
がすこいん さん
理事長とNPO法人との関係は、民法の委任の関係と解されます。従って、解任についての規定が無くても、任命権者が自由に解任できます。この解任は、民法651条の「委任の解除」ということになります。
解任される理事長が、当該理事長の解任の議決に参加することができるかどうかについては、議決に参加できると考えられます。
これに関しては、宗教法人の責任役員の代表役員の選任に関する最高裁判所の判例が参考になります。
宗教法人法21条2項は次のように定めています。
「責任役員は、その責任役員と特別の利害関係がある事項については、議決権を有しない。(以下略)」
この条文の解釈に関連して、最高裁判例は、「責任役員が代表役員を互選する場合において、その責任役員が代表役員の候補者に擬せられているときでも、議決事項につき特別の利害関係を有する場合にはあたたらないと解するのが相当」判示しました。(最高裁昭和53年11月30日判決)
理事総数の過半数か、出席理事の過半数かは、定款の定め方によりますが、単に「理事会で理事の過半数」という場合は、通常は出席理事の過半数という趣旨になります。
弁護士 浅野晋
Re: 理事長の解任 投稿者:
がすこいん 投稿日:2010/04/19(Mon) 14:58:24
No.9215
浅野先生
ありがとうございました。
Re: 理事長の解任 投稿者:
AC 投稿日:2010/04/20(Tue) 00:31:51
No.9218
横から失礼します。下記の裁判例から、理事長は自分を解任する理事会の決議について特別利害関係があると思います。
○東京高裁昭和53年2月28日判決 昭51(ネ)287号 責任役員会決議不存在確認控訴事件
東高民時報29巻2号38頁、判タ369号183頁、判時896号45頁、商事法務821号1034頁
(浅野先生がお示しの最高裁昭和53年11月30日判決の原審)
「しかるところ、宗教法人法は、他方第一八条二項において、代表役員は、規則に別段の規定がなければ、責任役員の互選によつて定めると規定しており、この規定の趣旨は、宗教法人における代表役員の選任は原則として責任役員の互選によるのが妥当であるとしたものであると考えられるが、前記同法二一条二項の規定を右一八条二項の規定とあわせ読むときは、同法は右代表役員を互選する場合における責任役員の立場は、その者が代表役員の候補者に擬せられたときでも、議決事項に対して特別の利害関係を有する場合には当たらないとの見解に立つものと考えるのが相当である。けだし、右の場合における当該責任役員の立場は、代表役員解任決議の場合における当該代表役員の立場とは異なり、公正な議決権の行使を期待することができないほどの利害相反的関係にあるとは考えられないのみならず、もし右の場合にその者の決議参加資格を否定すると、実際上互選による代表役員の選任が困難となる事態をも生じかねないからである。」
この「代表役員解任決議の場合における当該代表役員の立場とは異なり」との部分は、解任の場合は特別利害関係にあたるという意味を含むといえるでしょう。
Re: 理事長の解任 投稿者:
AC 投稿日:2010/04/20(Tue) 00:46:08
No.9219
一度にうまく投稿できないので、あと2つ裁判例を加えます。
○名古屋地裁昭和34年11月30日判決 昭34(ヨ)725号 仮の地位を定める仮処分命令申請事件
下民集10巻11号2536頁
学校法人の理事会による理事(仮処分申請人)解任決議のケース。
「そこで本件理事会における申請人理事解任の議決権数について考えるに、理事会における議決事項がある特定の理事に利害関係ある場合には該理事は議決権を行使しえないと解するのが相当であるから、申請人は同人解任の議事につき議決権を有しないこととなり、寄附行為第十二条、第十三条により理事としての議決権を有しない田中理事長と申請人の二名を除くと他の六名の理事によつて決せられることとなる。」
つづく
Re: 理事長の解任 投稿者:
AC 投稿日:2010/04/20(Tue) 01:07:29
No.9220
分割投稿の最後です。
○さいたま地裁平成14年7月24日判決 平11(ワ)914号 地位存在確認等請求事件
裁判所Webサイト 下級裁判所裁判例より
投稿できないのでURLを略します。
社会福祉法人の理事会による理事(原告)解任決議のケース。
「ただし,原告は,自らの理事解任決議については,特別の利害関係を有しており,議決に加わることができないし,Fも自らの理事解任決議について特別の利害関係を有しており,同じく議決に加わることができなかったこと(定款5条7項),また,前記のとおり,原告及びFが理事会に出席することは事実上不可能であったことや被告各法人における仮理事選任に至る経緯に照らすと,原告及びFに対する招集通知がされたとしても,決議の結果に影響を及ぼさなかったことは明らかであるから,招集通知がされなかったことは軽微な形式的な瑕疵にとどまり,決議を無効とする事由とはならないものである(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)。」
Re: 理事長の解任 投稿者:
弁護士 浅野晋 投稿日:2010/04/27(Tue) 20:00:24
No.9241
AC さん
ACさん、投稿ありがとうございました。
なるほど、最高裁判決を読み直すと、ご指摘の通り「解任の場合は特別利害関係に該当する」と読むことが可能のようです。
従って、がすこいんさんの質問に対する回答を、「判例上は特別利害関係があり、議決権はないと考えられる。」と修正いたします。
ただ、私としては、解任の場合だけ突如として特別利害関係があり、従って評決に参加できないとするのはおかしいと考えています。
仮に、このような場合に特別利害関係があると解するとしても、どうしてそのことを根拠に表決権が行使できないとするのかが理解できません。
そもそも、NPO法上は、特別利害関係がある場合には表決権がないという趣旨のさだめがありません。
もちろん定款にその旨の定めがある場合はそれに従うことになりますが、定款の定めがない場合にも、表決権がないとされることです。判例はこの点についての説明が全くありません。
特別利害関係というのは、私益についての利害関係ですが、理事の選任行為も解任行為も、どちらも構成員の共益行為と考えるべきであり、そうするとそもそも当該理事が自分の選任についても解任についても投票できると解すべきであると考えています。
いずれにせよ、ACさんのご指摘によって、間違いの訂正が出来ました。ありがとうございました。
これからも、積極的に参加していただけますようお願いいたします。
弁護士 浅野晋