記事No |
: 10348 |
件名 |
: Re: NPO法人から株式会社への出資 |
投稿日 |
: 2012/02/07(Tue) 18:58:48 |
投稿者 |
: 弁護士 浅野晋 |
参照先 |
: |
梅田 知良 さん
1、まず特定非営利活動促進法第3条1項の趣旨ですが、この条文は、「事業」を行 う「目的」が「特定の個人又は法人その他の団体の利益」であることを禁ずる趣旨 であることに留意してください。
従って、事業の目的に沿った事業をした結果として、たまたま「特定の個人又は法人その他の団体」が何らかの利益を受けたとしても,それは「特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として」事業をしたことにはなりません。
2,例えば、公共の安全及び災害被災者の救済を目的とする特定非営利活動法人Aの が、特定非営利活動促進法の別表に掲げる「災害救援活動」を行っており、そのお 事業として「災害被災者の救援、自立援助事業」を行っているとします。
このA法人が、東北大震災の被災者に対する仮設住宅を無償提供して、そこに B・C・D・E……という特定の個人が入居したとしましょう。
この場合、特定非営利活動法人Aの事業によって特定の個人が利益を得ていますが、A法人はこれらB・C・D・E……という特定の個人に利益を与えるために事業をしたわけではありません。特定非営利活動法人Aが,その目的を達成するために行った「災害被災者の救援、自立援助事業」の受益者が,たまたまB・C・D・E……だったということにしかすぎません。
3、しかし、具体的なケースによっては、ある「特定の個人又は法人その他の団体」 に限って利益を与えており、それが当該法人の事業目的であると解される場合もあ り得ます。
4、具体的なケースにおいて、それが「特定の個人又は法人その他の団体の利益を目 的として」事業が行われているかどうかは、
①当該団体の事業全体からみて、他にどのような事業が行われているか
②利益を受けているのがいつも決まって同じ「特定の個人又は法人その他の団 体」なのかどうか
③利益を受けている「特定の個人又は法人その他の団体」と当該特定非営利活動 法人・及びその役員達との関係はどのようなものか
④利益を受ける「特定の個人又は法人その他の団体」がどのように選定されるの か
といったことを考慮して判断することになると思われます。
5、ご質問の「出資」についても同様です。例えば、A法人が、A法人の事業の手足 として活動させるために,全額出資して株式会社Fを設立することは、その出資の 目的が株式会社Fの利益を図る目的ではありませんから、特定非営利活動促進法第 3条1項には違反しません。
しかし、例えば、“A法人が、同法人の理事の配偶者であるGの経営する株式会社Hの経営を援助する目的で、A法人の目的とは何の関係もない事業をしている株式会社Hの増資を引き受ける”という場合は、特定非営利活動促進法第3条1項に違反することになります。
6、このように、出資が特定非営利活動促進法第3条1項に違反するかどうかは、そ の具体的内容によるということになります。
弁護士 浅野晋