新寄付税制でNPOが変わる!—新制度活用の課題とポイント:黒田かをり氏インタビュー
日本の市民社会運動において、革新をもたらす一筋の光となった新NPO法。
新しい制度はどうやったら社会に根付いてゆくのか。
そのために各NPOが果たすべき役割とは?
長い間シーズと共に共闘してきた、CSOネットワークの黒田かをりさんに、
これまでの歩みを振り返りつつ、新NPO法を100%活かすための、
これからのNPOのありかたについて語っていただきました。
国際標準に追いついた!革新的な新制度、どう活かす?
—今回のNPO法改正について、感想をお聞かせください。
そもそも、私が市民社会活動に関わり始めた1994年ごろは、まだ市民活動団体を設立するのにふさわしい法人法はありませんでした。
海外諸国、とくにフィランソロピーの思想が発達している欧米諸国からは、日本は市民がイニシアチブをとって活動するための社会整備がなされていないと言われ続けていた。そんななか、いち早く活動を始めていたシーズと知りあい、以後、応援団のような形でサポートやってきました。
1998年に制定された特定非営利活動促進法はNPOにとってものすごく大きな第一歩でした。が、その後に作られた市民税制は、使い勝手が悪く、なかなか活用しきれない団体もありました。そのためにシーズは、90年代以降NPO法の先進国と呼ばれてきたアメリカやイギリスの民間非営利団体に関する法律を丹念に調べ上げ、また全国のNPO支援センターなどとともに議員への働きかけを続けながら、次の改正案を練ってきました。
その壮大な努力が実り、今回改正された新寄付税制は非常に画期的です。政策決定や公共サービスにも市民社会組織がより一層関われるようになる事が重要だと思っています。新しい制度はきっとその背中を押してくれるでしょう。国際的にも、高い評価を得られるのではないでしょうか。
—英米の税制度に追いついてきたということですね。
ええ、特に、新寄付税制では、最大で寄付額の5割を納税額から差し引くことができるということですが、これは言い換えると、公共のために、納税以外にNPOに寄付するというオプションを、市民一人ひとりが得られたということです。
公共は今までは官が独占していました。そのため市民は今まである意味納税でしか公共に関わることができなかったのが、今回の法改正によって、NPOへの寄付という形で、よりダイレクトに関わることができるようになりました。これは、日本の社会にとって、革新的な出来事です。
—逆に、今回生まれた新寄付税制と改正NPO法について、課題はありますか?
アメリカはみなが確定申告する制度なので、寄付控除という概念がなじみやすいのですが、反対に、日本では企業に勤めている場合、基本は源泉徴収ですよね。ですから、高額医療控除などは一般的になってはいても、市民社会組織への寄付控除は、手続きがめんどうくさかったりして、まだまだ普及していないので、いきなり「変わった」と言っても、市民にはピンと来づらいと思います。
つまり、いい制度ではありますが、なじむのに時間がかかるため、今後どうやって一般市民の間で認知度を高めてゆくのかが課題になるでしょう。「所得控除よりも、税額控除のほうがいいんだ」と言われても、具体的にどのぐらい得なのか、数字で示されないとわかりづらい。ですから、制度をできたあとに、きちんと社会システムとして根付かせてゆくことが大事だと思います。
—どうすれば、新しい制度が社会に根づいてゆくのでしょうか?
今回の改正は、震災や政局の変化などもあり、タイミング的に、ちょっと話題になりづらかった。メディア自身もよくわかっていないかもしれませんし、NPO自身も、まだちゃんと理解しているところは多くはないのではないでしょうか。ですので、政府だけでなく、メディアや、NPO法人自身がちゃんとこの制度を報道してゆき、社会にちゃんと根付かせる必要がある。今まで関心のなかった人にも、この制度の何がいいのかを理解してもらえるよう、表現の仕方に工夫が必要です。
また海外に対しても、「今まで日本のNPO税制は遅れている」という認識が根付いているので、そこはきちんと発信してゆく必要があります。NPO自身が宣伝するのはちょっとダイレクトすぎるかもしれませんので、第三者的立場の人、寄付する側の人びとが「こんないい制度だよ」と間接的に広めてゆく必要があるのではないでしょうか。